▼黒軍2本部にて

「早いな」

目線を地図に落として栞は呟いた。
地図には白、黒、赤の将棋の駒が散らばっている。白い香車が西側の三方向に広がっている。一方東側の黒の歩兵は未だ展開し始めたばかりだ。
今まで白軍がこの様な進軍をしたことがあっただろうか?狙撃手を配置させる為か?いいや、それにしては目立ちすぎる…。

黙って盤面を見ていると1つの通信が入る。
通信兵に繋げるように指示を出すと切羽詰まった状況に似合わない声が出る。

『やぁ、栞。どうかね、進展は?』
「猿田さんですか。全く良くありませんね。相手の意図が見えてきません」
『おや、そんな時こそこの儂の出番ではないかね?折角部隊から引っ張られて参加しておるのだ。使ってもらわなければ腐ってしまうぞ?』

飄々とした声音にあわない古めかしい言葉を使う男は猿田道明である。彼はけらけらと笑い続ける。

『現在地は南地区022。今騎馬隊の正面におるが…あの後ろの歩兵はえらく遅く展開しておるなぁ。攻め入る気はあるのかね』
「……!」

道明の言葉で栞は地図上の白い駒を移動させる。白の歩兵を西側の端である001地区に配置する。その上で三方向に突撃してきている香車を見る。
まさに一番槍とも言える香車であるが、これの役割は一体なんなのだろう。不意をつくための桜か、それとも爆弾なのだろうか。

『騎馬隊の規模は一小隊程度だぞ。あれは…馬車か?青い紐をつけた人間が2人乗っておるな。…おい、栞』

青い、紐。
青い紐をつけた白軍の人間。
もともと白軍の施設から逃げ出して今はあの鬼部隊長と評される宗介にべったりな、青い紐をつけた少女がいなかったか?

栞は白い香車を歩兵と同じ位置まで下げ、代わりに飛車を3つ前線に置く。

「…念には念を入れる。ありがとうございます、猿田さん」
『厄介なことになったのぉ。まぁ観測は続けよう。……いや、少々部が悪いな。一旦撤退する』

猿田の声音が少し変わる。何かがあったようだ。…おそらく、誰か敵軍に見つかったのかもしれない。栞が何かを言う前にぷつんと通信が切れた。
援軍も送れるが、援軍が到着する前に猿田は適当に逃げるだろう。
そう判断し全体へ向かって発信することを通信兵に伝え無線を手に取った。


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黒軍東地区○19
『本部より総員に告ぐ。前方、南北中央3つに分かれ騎馬隊が接近中。現在うち1つの部隊が南地区○22に接近。薬物により強化されたらしき人間が確認されている。警戒されたし。引き続き赤軍の潜伏に注意しつつ進軍せよ。終わり』

「まーじか」

禊がぽつりと呟いた。状況を確認しながら慎重に進んでいるが、敵は結構近くに迫っていたのか。しかも、びっくり人間を乗せているときた。

「香奈とおなじひとなの?」

我が部隊のびっくり人間が宗介を見上げながら言う。宗介は頷く。

「大丈夫だな?」
「ん。だいじょーぶ。香奈、がんばる」

まるで親子のような兄妹のようなやり取りを微笑ましく思えないのが悔やまれる。
ここで言う「香奈、がんばる」は「香奈、禊を守れるように頑張る」なのだ。幾ら実年齢が1つ下なだけであってもこんなに小さな少女に守られるしかない自分の無力さが恨めしい。
禊がそう思っているのを知ってか知らずか、少し彼に目線を向けた宗介が無線に向かって問いかける。

「本部、こちらはのいち。これ以上の情報提供は無理か?送れ」
『はのいち、こちら本部。今情報提供者の猿田道明が接敵しており難しいと思われる。送れ』
「そうか…了解した。はのいちよりろのいち。何か変化は見られるか。送れ」
『おう、こっちはまだなんもねぇぞ』
「…鉄、なんでお前が答えるんだ…」

呆れ気味に宗介がつぶやく。しかし鉄平はそのまま続ける。

『敢えて言うなら馬のが若干聞こえるくらいかね。まだ衝突するまで時間がっ、あー!!』

突然の大声に宗介は顔をしかめる。どうした、と問う前に鉄平が相変わらずの大声で叫んだ。

『坂本雄一!!よぉ!喧嘩しよーぜ!!』
「……」

無線の向こう側から、うおっ、まじかよっなどと言う鉄ではない男の声が聞こえてくる。

『…本部より総員に告ぐ。南地区○33にて赤軍、赤○11と接触。戦闘を開始した。戦闘地域を避け進軍せよ。終わり』

どうせあそこの戦闘は模擬戦のようなものだ。気にせず進軍しろ、と言うことだろうか。
宗介は気を取り直し、意気揚々と進む香奈に続いて進軍した。

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