▼黒軍1


突如爆音が響いた。銃の暴発音とは比べ物にならない、まるで空から降ってきた爆弾のような振動を伴う爆音。

「……はぁ」

混乱する黒軍本部。慌ただしく行き交う通信兵たち。その中の大きな地図の前で哀川栞は珍しくその微笑みを消し呆れたように息をついた。そして無線を手に取る。

「はのいち、こちら本部。状況確認求む。送れ」
『本部、こちらはのいち。中央○○4区画にて爆発を確認。おい、こっちは開始戦線すら超えてねぇぞ』

無線の向こうは前線組だ。喧騒が大きくあちらも慌ただしいことがうかがえる。無線に出た第参歩兵小隊隊長はのいち、杉原宗介の声音も険しい。
とすると、白軍の煽りか、うちの軍の馬鹿がやらかしたか、それとも。
思案していると宗介の怒号が考えを叩き斬る。

「宗介、どうかしたか?」
『ッッ!…すまない。鉄が開始戦線を超えて行った。それに続いて何人か出撃した。詳細はいのいちに聞いてくれ。…止めるか?』
「いや、いい。…本部より総員に告ぐ。出撃を許可する。赤軍の潜伏の可能性あり。奇襲に備えよ。終わり」

そう言うと栞は無線のマイクを切り、ほっと息をついた。なんだかんだでどちらが開始戦線を超えるかピリピリしていたのだ。むしろ好都合だったのかもしれない。

と、横から湯のみが置かれる。栞が顔を上げるとガスマスクで顔面を覆う薬師志信がそこにいた。その顔は険しい。

「おや、志信。ありがとう」
「…………」
「いや、どうせこの戦場じゃ陣取り合戦が主になるからね。どちらが先に、多くの区間を取れるかが鍵なのさ」
「…………」
「そうだね。戦争は難しいよ。…さて、そう言うわけだから君達衛生兵の本格的なお仕事はまだ先になりそうだ。それまで、ゆっくり待機しておきなさい」

その言葉に志信は頷くと下がっていく。それを見届けて無線の発する学徒たちの声に耳を傾けた。

……………………………
黒軍東○13区画にて

『本部より総員に告ぐ。出撃を許可する。赤軍の潜伏の可能性あり。奇襲に備えよ。終わり』
「宗介、俺も出ていいんだよな?」
「先輩、私も行きます!!じゃ!!」
「そうすけ先輩、香奈はいっしょにいればいい?」
「先輩、俺もついて行きますか?」
『宗介!鉄だ!早く行こうぜ!!』
「…禊と香奈、臨は俺と一緒に行くぞ。卯月は特攻組についてけ。必要になったら呼ぶ」
『俺は?!』
「お前は第弐歩兵小隊だろうが!!第弐の隊長に聞け!」

相変わらず、宗介先輩は人気者だ。
一団から一歩離れたところで穂積颯は思った。自分も中に入りたいところだが…いや別に入りたくない。面倒臭い。
兎に角同じ第参歩兵小隊として、出雲禊の右腕として行動を共にしたいところだが、生憎自分の得物は弓で中距離武器。他の面子は近接武器。あいにくといっしょに行動はできそうにない。

「じゃあ僕は援護射撃を」
「ああ、颯。任せる。…本部、こちらはのいち。出撃を開始する。終わり」

首元のマイクにそう言ってから宗介は一同を引き連れて開始戦線を跨いだ。

「よ、颯。1人か?」

と、颯の後ろから声がかかる。振り向くとそこにいたのは東雲秋人だった。得物の戟を担ぎ颯に手を振る。

「東雲先輩。ええ、あれの援護に回るので。東雲先輩はどちらの組に?」
「あれ…ああ、第参ね。俺は第陸。まぁ今回は遊撃。折角だしお前についていこうかな」
「それは僥倖です。先輩が側にいれば余計なことを考えなくてすみますから」

よろしくお願いします。と笑う颯に秋人はにっと笑い返した。


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