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「わふ…」

「ハァイ装填完了!じゃァ戻ろっかフェンリル!」

「ばふッ!」


マンションの影で銃に弾を装填していた夏羽は一息ついてフェンリルに告げる。
するとフェンリルは夏羽の肩に鼻面を押し当てて少し甘えると小さく伏せた。それに跨った時、夏羽は何か違和感を覚えた。

薄ら寒さを感じて夏羽はフェンリルにピッタリとくっつく。夏羽の背中を寒気が襲う。

その悪寒は時間が経つたびに強くなった。
フェンリルの腰は引け気味で低く唸った。


恐怖で足がすくんで動けない。


悪寒はどんどん強くなる。それと同時に小さく…否どんどん大きく羽音が聞こえてくる。

虫の羽音に似たそれは、低い音を出しながら近づいてくる。

フェンリルも唸り声を潜め、呼吸さえも遠慮して影に潜む。

やがて影より深い闇が夏羽を覆う。

見上げた夏羽は我を疑った。

見知った動物でも虫でもない。それどころかミレンでもない。夏羽もフェンリルでさえも未だ嘗て目にしたことのない生き物の影だった。

桃色がかった人と同じくらいの大きさの"それ"は甲殻に覆われていて昆虫のように数対の関節のある足を持っており、背びれのように見える膜状の翼が何対も備えている。
普通なら頭部があるのであろう場所には短い沢山の棒状の何かが生えている、楕円のような渦巻き状の何かがあった。


目は無いはずなのに、夏羽は確かにそれの視線を感じた。
目は無いはずなのに、夏羽は確かにそれと目があったと感じた。


体温が急速に低くなる。血の気が足元まで下がり、薄ら寒さを感じた。

心臓はバクバクと早鐘を打ち、夏羽自身に"逃げろ"告げる。

しかし足は動かない。生物は再び夏羽を見た。
そして一気に高度を下げ夏羽に迫る。


その鉤爪は大きく振りかぶって、そして…


「オリアス殿───!!!」


大きな叫び声に似た怒号がその場をしめた。

叫び声とともにその生物は大きく仰け反り、軌道を反らした。

生物の軌道が大きく反れたせいでビルの壁にぶち当たる。

煙があがるその空間で、巨大な馬の影が夏羽の目の前で広がる。それは酷く焦った声で言った。


「夏羽先輩?!大事ありませぬかっ?!」

「平気だろう小僧。死んでは居らぬよ」

「しかしオリアス殿!」

「ア…ペペくん…」


煙から現れた影、オリアスとその愛馬に相乗りするペリクレスを見て夏羽は呆然と呟いた。
さらに、その後ろからさらに2つの影が飛び降りてくる。


「俺っちもいるよよよぉん!なぁつは!」

「サ、朔斗…!!」


フェンリルの隣に降り立った真っ赤なフードを被った朔斗がにこりと笑う。
フェンリルから乗り出した夏羽を受け止め、朔斗は言った。


「俺っちのかっわいー後輩をこんなにビビらせちゃってぇ…サエちゃんパパっとやっちゃっていいよ」

「あてに任せてみい。ナッチャンの分までやっつけてやるから。なぁ、ミア?」

「うん…ミア、やっつける…」


朔斗とは逆隣に降り立った冴得がよろよろと体制を立て直す生物を一瞥すると、自分の肩越しに現れたデュスノミアーに微笑みかける。

デュスノミアーはそれに頷くと胸から火の玉を放った。

火の玉は徐々に大きくなると劫火のように生物に襲いかかった。


炙られる生物は、しかし火が収まってもぷすぷすと硫黄のような臭いを発しながら飛んでいる。それでも冴得は情けをかけなかった。


「これで終いや」


突撃しようとする生物に向かってナイフを何本か投げる。
ナイフは全て生物を突き刺した。


「────ッ


生物は金属と金属が擦りあうような嫌な音を響かせながら墜落する。

墜落したそれは何度かビクビクと痙攣して、やがて動かなくなった。

冴得はそれに歩み寄り、頭部であろう場所を思い切り踏み潰した。
そこは簡単に砕け散り、桃色の体液を撒き散らして粉々になった。


「いやぁなやつやねぇ、バッシー?」

「そうだねぇさっちゃん。…夏羽、大丈夫?」

「こ、わかったァ…」


フルフルと震えながらも顔を上げた夏羽は少し微笑んでいた。心配していたものよりも精神ダメージは食らっていないようだった。


「それにしても、なんなんでしょうか…此奴…」

「我らも見たことない。なぁ狼?」

「ばふ」


オリアスの言葉にフェンリルが一つ吠えた。正面に立っていたペリクレスに頭を押し付ける。恐る恐る頭を撫でたペリクレスに甘えたような高い声を出す。


「Kに嫌な予感がするから早く行けって言われたんだよ」

「途中であてらと会ったんよ。オリアスに乗せてもらってたんで一緒にぃって」

「3人も乗せてほとほと参っていたのだ。足が見つかってよかった」


クツクツとオリアスは笑った。その言葉に夏羽はハッとなった。


「ソウダ!町の中心部でミレンが出てて…」

「大丈夫です。通信がありましたから…恐らく、此奴と同じものが絡んでるやも知れません」

「はよ行こ。四苦八苦してるんやろ?」


冴得の言葉に頷いて夏羽は朔斗から離れフェンリルの背に跨る。
乗ってください、と小さく言うと、冴得と朔斗はその後ろに乗った。


「案内するからァ…付いてきて」

「承知した」


オリアスは夏羽に頷くとペリクレスを持ち上げて愛馬に乗せる。そして全速力で走り出した狼にの後を追いかけていった。







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