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- 「にしても、全然減らねぇなこいつら。ずっとこんなんなのか?」
戟を振り回しながら秋人は問いかけた。
今秋人が倒したヘルハウンド型は霧散するが、それでも数が減ってきているとは全く思えなかった。
夏羽たちがいるビルの上はもちろん、向かいのビルの上にも黒がちらつき、デュラハン型に関しては宙に浮いている。
「アハハーずゥっとこの調子なんですよォ。アポロン、なんかわかったァ?」
「ううううとつぜん、どっかから出てきてるってことしか…あ!みっちーきたよ!」
アポロンがそう言うとフェンリルは目の前のデュラハン型を一蹴してよろめいた隙をついてビルの下へ降りていった。
別のデュラハン型がそれを追いかけようとするが、ヒュプノスの杖に突かれて失敗に終わる。
夏羽は今飛び込んできたヘルハウンド型を狙って銃を構えようとするが、はっと気
がついてヘルハウンド型の腹を蹴り上げた。
大して威力を与えられなかったのかヘルハウンド型はくるりと一回転して難なく着地した。
「?一、どうかしたのか?」
「アハハー弾無くなっちゃったァ」
「?!あははーじゃないだろ!」
がおうと吼える秋人に笑顔で返事しながら夏羽ほまた一匹ミレンを蹴り上げた。
「ダイジョーブですよォ。スペアは持ってきてるのでェ。でもこれヤバイかなァ」
そう言って夏羽は耳元の通信機をガチャガチャと弄る。
先程から聞こえていた爆発音やらの喧騒がノイズに消えて、代わりに答えたのは戦場に合わないのほほんとした声だ。
『夏羽?どうかしたのかい?』
「ハァイ來人おじさァん。ちょっとQ呼べないー?」
『Q?ちょっと難しいかな。そんなに押されてるの?』
來人の言葉に夏羽は辺りを見渡す。やはりミレンの数は減っていない。倒すことに余裕がないわけではないが、単なる長期戦となると勝率は一気に下がる。
「ンー…ミレンの数が全然減らなくてキリがないんだよねェ。逢魔時が終わるまでに持つかギリギリかもォ」
『…分かった。灰色とKに連絡しておくね。…頑張って』
「ハァイ。がんばりまァす」
夏羽はそう言って通信を切る。それとフェンリルが背に何人か乗せて帰ってくるのは同時だった。
フェンリルの背に乗っていた小春、真、志信は降りると臨戦態勢になる。
そんな中ミチザネは夏羽に歩みよった。
「フード!雑魚はどうした?」
「あ、みっちィ。和彦ならあゆみちゃんと給水塔のとこにいるよォ」
それを聞くとミチザネは給水塔へ向かう。それについて行きつつ夏羽はまた通信機を弄る。
「アーアーアー聞こえますかァ?」
そう言うと一瞬の沈黙のうちに返事が一から返ってくる。
『夏羽、和彦何があったのです?』
「こっちにもデュラハン型がイッパイきたんだよォ」
『えっ?大丈夫なの?』
ビテュニアに問いかけられる。和彦の怪我を思い出して夏羽は気まずげに声を潜めた。
「ダイジョーブ。和彦がかすり傷作っちゃっただけだしィ、来たのはミレンだけじゃ」
夏羽のセリフを断ち切るかのように後ろ側から轟音が聞こえる。
夏羽は思わず振り返るとアマノタヂカラオがデュラハン型を踏みつぶしているところだった。その後ろには敵を睨む東雲兄弟が居る。
「てめぇら邪魔なんだよクソ兄貴と一緒に死ねオラ」
「あ"?お兄様と呼べや雷落とすぞ」
「…喧嘩してるけどォ?」
「…よい。通常運転だ。無視しろフード」
「オッサンやっちまえ!火炎放射!」
「できねぇっつっただろ!」
後ろから喧騒が聞こえてくるが、夏羽は笑いをこらえて無視する。
和彦の元へたどり着くとあゆみが和彦の傷に手をかざしたところだった。
和彦の怪我は未だ血は止まっていない。
「怪我直しますからっ」
「大丈夫だよー。ありがと」
「あっち、いってくださいッ!!」
真の渾身の一撃をモロにくらったデュラハン型が此方に飛んでくる。
「うわこっちきたァ。一旦切りまァす」
ちょ、とも、あ、とも取れる声を無視して夏羽は一旦通信をきってデュラハン型に向かって手をかざした。
その手の元へ帰ってくるように秋人達と戦っていたフェンリルがやってきてその口から火を吐き出す。
その火に炙られてデュラハン型は消え去った。
その間にエラトーが和彦の腕に手をかざす。すると、怪我は元々無かったかのように消えていった。
「すみません!お怪我はありませんか?」
慌てて駆け寄ってきたのは真だった。肩で息する真の肩を叩いて夏羽は笑う。
「ダーイジョゥブ。あ、そォだ」
夏羽はポンと手を打つと耳につけてあった機械を取って真に差し出す。
「悪いンだけどォ、この状況うちの軍に報告してくれないかなァ」
「え?じ、自分がですか?」
慌てふためく真に夏羽は一つ頷いた。
「私弾無くなっちゃったから補給しに行かなくちゃいけなくてェここ離れるんだァ。真くん強いしィ和彦もあゆみちゃんもアナライズやら救護やらで大変だしィ。お願い、できるかなァ?」
真は少し残念そうな顔をしたが笑みを浮かべて通信機を受け取り頷いた。
「そういう事なら任せてください。和彦先輩と織川さんの側にいますから。ここを押せばいいんですよね?」
「ソウソウ。わっるいねェ。フェンリルー行くよォ」
夏羽はフェンリルに呼びかけるとフェンリルが駆けて来る。
夏羽が飛び乗るとそのままミレンの間を縫って何処かへと走り去ってしまった。
和彦はエラトーに頭を下げた後にミチザネを見上げた。
「で、スガさんはどうしたの?」
「おかしな敵がいる」
「は?」
首を傾げる和彦を無視してかミチザネはそのまま続けた。
「ミレンは全部変な見た目だと思うけど」
「否。ミレンかどうかも怪しい。大した探索能力を持たない秋人が使えなくなる程の気配を持っている。気をつけろ。我は戻る」
ミチザネは自分の仕事は終わりだと言わんばかりに途中でミレンに雷を落としながら秋人の元へ帰っていく。
「ミレンじゃない生物ですか…なんで逢魔時に…」
「…わからないけど、取り敢えず、真くんお願いできる?」
「はい、わかりました」
そう言って真は通信機を耳に嵌めて小さなボタンを押す。
通信機からの破壊音が聞こえるようになり、真が口を開いたのとけたたましい音楽が通信機から響くのはほぼ同時だった。
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