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『僕ちんドジしちゃったぁ!ごめんねん』

『誰が許すかッ!』

『おおいびせぇのう。女の子にはもっと優しゅうしたほうがええんじゃぁない?』

『和彦、把握はできましたの?』


街の中心部に位置する大きな駅。それを囲むビル街のビルの一つに赤い2人と1人と1匹は居た。

体長が寝そべった大人と同じくらいの大柄な狼、フェンリルに寄りかかりつつ、夏羽と和彦はある一点を見ていた。

ある一点、町外れから煙がもわもわと上がっている。

通信機越しからも聞こえる雄一と案山子の言い合い。そんな2人の言い合いを気にかけることなく淡々と要件を要求する一に相変わらずだなぁ、と和彦は苦笑した。



「うん、今終わったよ…今戦ってるのはミレンデュラハン型。弱点は炎、雷属性。氷属性の攻撃はあまり効かないね」

『ありがとう和彦。バルドル、やるぞ』


夕輝の呼びかけが聞こえると町外れの一点はぴかりと1つ瞬き、轟音が幾つも響いて聞こえた。
それを見ていた夏羽はひゅーう、と吹けもしない口笛を吹くように口を尖らせた。


「さっすが夕輝兄貴ィ。バルちゃんの威力は絶大だねェ」

「でも本調子じゃないみたいだよ。幾つか外れてる」

「それでアレですかァ?」


全体に降り注いだが、その割に敵はダメージを食らっていないような感じがした。
が、ミレン全てが撃破されるまでは時間の問題だろう。


「アポロン、敵についての情報もっと引き出そう」

「うんっ。僕もがんば……?」


にこにこと握りこぶしを作った金髪の少年、アポロンはしかし途中で後ろを振り返る。


「?どォしたのロンロン?」

「…?うーん、なんかね変な気がする」


アポロンのその声で夏羽は立ち上がった。それと同時にフェンリルも立ち上がる、がその大きさはどんどんと大きくなり、体高が2メートルほどになった。

走る緊張に己を奮い立たせ、和彦は赤軍の状況を纏める。


「2体撃破。残り5…ッ?!」


途端、酷い悪寒がして冷たいコンクリートを反射的に転がる。しかし、タイミングが遅かったようだ。

腕に熱と激痛がはしった。一瞬見えたのはフードから覗いた夏羽の驚愕した表情と赤い炎だった。


「和彦?!」


叫んだ夏羽に視線をやった後、和彦は自分の腕を傷つけた相手を睨む。

そこにいたのは赤い目を持つ黒い毛並みの犬だった。ラブラドールと同じくらいの大きさで、その口内には火が蓄えられているように歯と歯の間からちらりちらりと焔が漏れて見える。
犬は一つ遠吠えするとその後ろから続々と同じような犬と首なし馬に乗った首なしの女性型ミレンが現れる。

遠吠えした犬は再び蹲る和彦に襲いかかろうと大きく吠えるが、銃声がそれをかき消した。

和彦は犬とミレンから視線を外し、夏羽を見上げる。夏羽は銃を二丁構えていて、和彦の前へ出る。


「和彦ダイジョーブ?私が何とかしてるから、解析お願いァい」

「なつッぐぁ、」

「か、かずひこっ!」


無理するな、と言いかけたが痛みが邪魔をする。心配げに眉を下げるアポロンに微笑むと体を起こし、相手を睨みつける。


「アポロン、彼奴らの、こと、」

「わ、わかった!」

『な、和彦先輩!夏羽先輩っ!返事してください!』


深雪の必死の呼びかけが遠くに聞こえたが、今は気にする余裕がない。
和彦はごめんね、と心の中で言って目の前の敵に集中した。


「なつはっ!デュラハン型のせいしつ、おぼえてる?」

「えェとォ炎と雷が苦手?だっけ?氷はダメだよねェ?」

「そうだよ!わんこの方はもうちょっとまって!」

「りょォかい。フェンリル!」


アポロンに、にっと笑った後、夏羽はフェンリルに呼びかける。フェンリルは低く唸り声を上げた後に大きく咆哮した。

すると黒い犬とデュラハン型の足元に赤い亀裂のような線が入った。線はパシ、と、音を立てて炎とともに破裂する。

デュラハン型のミレンは装甲を熱風に吹き飛ばされ、炎に炙られ、破裂するように空中に霧散していく。

しかし、黒い犬の方は炙られても大した痛手にはなっていないように見えた。炎の中にいたのにもかかわらず元気に襲いかかってくる黒い犬を夏羽は何体か撃ち落とす。


が、全てを撃ち落とすのは不可能だった。
1匹の犬がフェンリルも夏羽の猛攻を掻い潜り、夏羽の喉元に飛び込んできた。


「ぅおらあああああっ!!」


驚いて夏羽が状態を崩したのとその雄叫びが轟くのはほぼ同時だった。


巨大な剣に真っ二つに叩き斬られた犬は夏羽の喉元をかすめて消えていった。


「おっと!」


後ろに倒れる夏羽を支えた人物は夏羽を見るとニカッと笑う。


「夏羽先パイ!大丈夫っスか?」

「あんれェ朱美くんじゃァん。どしたのォ?」

「先パイの危機をかんじ」

「お嬢ちゃん無事か?」

「ちょっ!オッサン!」


セリフを遮られた朱美は今、犬を倒したシグムンドをキッと睨む。腕に抱えていたあゆみをそっとおろすと、シグムンドは豪快に笑った。


「ガッハッハ!ちっせぇな小僧!」

「シグおじさんに比べたらちっちゃいよねェ」

「え、それって身長的な話ッスよね?そうっスよね?」


さァどうかなァときゃらきゃら笑いながら言う夏羽も、食ってかかる朱美も両手に持った銃を連発しながら楽しそうに会話している。

そんな2人を横目にあゆみは和彦へ駆け寄った。


「和彦先輩!大丈夫ですか?」

「ん。…取り敢えず離れよう。巻き込まれたくない」


和彦はそう言って立ち上がり、ぼたぼたと落ちていく血液を払ってフラフラと給水塔の陰に逃げ込んだ。


「ぜんぜん減らねぇなぁっとぉっ!」


シグムンドの言葉に返事するようにフェンリルが低く唸る。


「みんな!そいつはミレンヘルハウンド型!ほのおにたいせいがあってぶつりによわい!」

「ロンロンありがとォ」


アポロンに礼を言うとアポロンはにっこり笑って夏場の後ろに避難した。あくまでここでオペレーションを続けるようだ。


「物理だぁ?俺様の得意分野じゃねぇか!」


物理と聞いて気分が高揚したのかシグムンドは剣を振り回す。

と、 突然煙りから有翼の青年が飛び出してきた。赤と青のファンシーなものはなく、全身真っ黒でもない青年は確かに夏羽たちに見覚えがある守護霊だった。


「あ、ヒュプノ…何抱えてんのォ?」

「……!」

「ぐ、ぐぇ…着いた…?」

「へ?あ、秋人先パイどうしたんすか?」


ヒュプノスが夏羽の後ろに静かに下ろしたのはげっそりときて腹部を抑える秋人だった。
突然の秋人の登場に驚きつつも朱美は問いかけた。
するとヒュプノスが秋人の代わりに答える。


「……」

「秋人先パイ体調悪くなったんすか?大丈夫?」

「あ、ああ。今は全然…おい、なんで分かった?」

「ヒュプノスが教えてくれたっす」

「アハハハッ!さっすがだねェッ!」


愉快そうに笑いながら夏羽はまたヘルハウンド型を1匹撃ち落とし、その奥でフェンリルがデュラハン型に噛みつき消滅させる。が、またその後ろから別のミレンが現れる。
それを一瞥してから夏羽は秋人と向かいあう、があれ?と首を傾げた。


「みっちーはァ?志信ちゃんもいないしィ」

「ああ…もう少ししたらくると思う」

「りょォかァい」


それだけ言うと夏羽はまたミレンに向き直ってその口内に銃を打ち込んだ。





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