逢魔時 0:07
- 先に行ってしまった2人を追いかけ、秋人、小春、真、志信は急ぎ足で街の中心部へと向かっていた。
連続して聞こえる破壊音が徐々に遠くなり、狼の遠吠えが近づいてくる。
ミレンの気配が強くなる中、突然スガワラノミチザネは歩みを止めた。
「…ミチザネさん?どうかしました?」
真が問いかけると、ミチザネは目を細める。
「…いや、何か変な感覚が…」
「…ぐぇ、なんか、気持ち悪いんだけど」
「うっわ、吐くなら向こう行ってよ」
秋人が口元を抑えると小春は秋人から距離を取る。秋人は小春を恨めしげに見るが何も言わずにその場にうずくまる。
眉を下げた志信が駆け寄り秋人の背中をさする。
「貴方様」
「あ、エラトーさん…」
突然降り立つ気配に目を向けると真の前にはエラトー、志信と秋人、ミチザネの隣にヒュプノス、小春の隣にはアマノタヂカラオが立っていた。
アマノタヂカラオに関しては仁王立ちで辺りを睨みつけるように見渡す。
目に涙を溜めながらえずく秋人、突然辺りを警戒し始めた守護霊たちを見た一同は流石におかしいと思ったのか周りに気を配り始める。
「…っ」
と、突然感じた目眩に志信は頭を抑えた。
ぎょっとした様子で志信を見つめる小春をちらりと横目で見て真は耳をすます。
建物の立ち並ぶ真っ赤な世界。
轟音と狼の唸り声が微かに聞こえる。
その中で静かに、けれども確実に近づいてくる音。
何かの羽音。
瞬間、辺りを注意していたミチザネは突然目を見開くとヒュプノスに叫んだ。
「おい眠り神!秋人を運べるか?!」
「…!」
ヒュプノスは大きく頷くと秋人の腹部に手を回して持ち上げる。ぐぇ、と蛙が潰れる様な声を出して秋人は口元を抑えた。
「は、吐く吐く戻す…」
「少しは耐えろ腰抜けがっ!逃げるぞ!」
「逃げるって、どうしてですか?戦闘もできない状態なのですか?」
今にも音の主を迎え撃とうと其々の武器を構えていた真はミチザネに問いかけた。多少棘があるように聞こえるのは気のせいではないだろう。
「血気盛んなのは立派だが、体調不良な者を2人も抱えて勝てる相手ではない」
「何故、勝てないと言い切れるのです?ミチザネさんはこの音を知っているのですか?」
「知らん」
堂々と言い切るミチザネに苛立ちを隠さずにだったら、と言う真を遮ってミチザネは口を開いた。
「だが、相手の性質を把握できる者もいないのに敵に回すのは愚の骨頂。我らは早々に誰かと合流せねばならぬ」
「…わかりました」
一つため息をついて真は臨戦態勢を解く。が、テミスは尚音の方向を向いている。
「テミスさん。行きましょう」
「いいえ、残滅します」
「テミスさん、自分の言うことを聞いてください」
「…わかりました」
渋々と剣を納めたテミスと不満げな真を一瞥した後、ミチザネは頭を抑える志信と状況が飲み込めていない小春を見た。
「マスク、弟、体調は」
ミチザネの言葉に志信は立ち上がり頷く。顔は若干青いが、ヒュプノスに抱えられてぐったりとしている秋人よりもは元気に見える。
一方小春は一連の変化に少し混乱しながらも言う。
「心配しなくても平気だよみっちー」
「みっちー言うな。平気ならいい。全員あの馬鹿どもと小娘の下まで走るぞ!」
そう言うや否かミチザネは滑るように走る。
それについて行きながらも後ろをちらりと振り向いた小春は角の向こうに異形の影を見たような気がした。
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