逢魔時0:10《おうまだん》


真っ赤な夕日の色に染まる真っ赤な街。
その町外れの広い公園にその赤い集団は居た。
公園は街と等しく赤に染まり、彼方此方に黒い人や動物の像が乱立している。今にも動き出しそうなその目は虚ろに虚空を見つめていた。

不気味なそれらを赤い集団は気にかけることもせずに公園を横切る。
集団の中で一番後ろに居る一は辺りを見渡しつつ、耳の通信機に手を当てた。


「和彦、まだ反応はありませんの?」

『うーん…Kはそこら辺に出るって言ってたんだけど』

『さっき連絡きたばっかだしィ。もう少ししたら出てくるんじゃないかなァ』


通信機から聞こえる声は和彦と夏羽のものだ。オペレーターを務める2人はどこか見晴らしのいいところでこちらを見ているのだろう。


「あの男、本当に信じていいんかの。いまいち信用できん」

『だよねェ。なんか胡散臭いしィ』


訝しげな案山子の言葉に夏羽はケラケラと笑う。


『それでもあの人の情報が一番信憑性あるんだって。今の所当てが外れたことは…雄一、ストップ』


突然かかる静止に先頭を切っていた雄一は歩みを止めた。各々が緊張状態になる中、夕輝は目を細める。


「1…4…6、いや、8かな?」

『ビンゴ!大型ミレン8体、約3キロ先。そっちに向かってるね…後3分で着く』

「はやいね。何型か検討つく?」

『…馬の時速は60キロじゃなかったかなァ?』


何気ない夏羽の言葉に一同は戦慄する。彼らの記憶に馬型のミレンはないからだ。

今回は対逢魔時対策チーム9人総動員で討伐に当たっている。
オペレーターの和彦とその護衛の夏羽はかなり離れた場所にいて戦闘への参加できない。そしてこの場にいる7人の中で一は司令の為、深雪は救護の為に後衛になる。つまり実質5人で戦わなくてはならない。
さらに今回は馬型のミレン。つまり未確認のミレンとの遭遇が予想される。一度遭遇したものならば、過去のデータがあるためオペレーターによるミレンの分析は要らず、弱点なども既に把握しているために戦闘は早々に終わることが多い。が、未確認のものとなると、オペレーターが分析をする時間がかかる。そのため、はじめは手探りで攻撃を繰り出すしかないのだ。


ピリピリとした空気が漂う中、尋は一つため息をついた。


「…やりにく。雄一なら3体くらい余分に倒せるよね?」

「尋も余分に倒す勢いでやれよ」

「ワシの爆弾で何体か…」

「まって僕の仕事が増えるから自重して」

『ほのぼのしてるところ悪いけど、あと30秒、29、28…』

「全員戦闘態勢に移りなさい」


和彦のカウントダウンが始まり、一は全員に合図した。


「先制攻撃を譲らないように」

「わかってるって!ボクに任せてよ」


ビテュニアは一にウィンクすると薙刀を構え姿勢を低くする。

和彦のカウントダウンと静かな緊張感が流れる中、じゃらり、じゃらりと金属が擦れる音が徐々に近ずいてくるのを聞いた。


『5、4…ビテュ!』

「はぁい!」


和彦の掛け声に返事してビテュニアは前方へ駈ける。

ビテュニアが薙刀を振り下ろしたのと大型ミレンが姿を現したのはほぼ同時だった。

薙刀は赤と青で染まったファンシーな首なし馬に跨る首なしの女の鎧に当たり、ひどく鈍い音を立てて弾き飛ばされる。
が、ビテュニアは慌てることなく地面に降り立つと何歩か後方に下がった。


『ミレンと接触確認。時間稼ぎ頼んだ』

「相手は装甲持ちですわね。でしゃばりすぎないように」

「了解。イブリース、やるぞ」


雄一がそう言うと、パキリと何かが割れるような音がした。
瞬間、光の破片が雄一の体を中心に飛び散り、破片は彼の背後で一つになり、やがてそれは有翼の青年、イブリースへと形を変えていく。


イブリースは頷くと雄一の抜刀に合わせて己の剣を召喚する。


ビテュニアの攻撃に怯んだ大型ミレンの後ろから同じようなミレンが湧き上がるように現れる。
それらを一瞥した雄一はサーベルを構えビテュニアの狙ったものと同じミレンに向かって斬りかかった。

ガツンと音を立てたミレンの鎧は限界だったようでバラバラと粉々に砕け散った。大きくよろめいたミレンにイブリースが追い打ちをかける。

かなりのダメージをくらったのか、そのミレンはぐったりと倒れこんだ。


「もっらいー」


雄一が引くのと同時に尋が飛びかかる。
尋の鉤爪に切り裂かれたミレンはそのまま霧散した。


『一体撃破、確認』

『おめでとォあと7体頑張れェ』

「…先が長いですね」

「一番後ろのに投げ込むけぇ、注意したほうがええよ」

「はぁっ?!案山子お前ちょっとまっ」


深雪のげっそりとした声の後、唐突に案山子の声が響く。
その声に前衛にいたビテュニアと尋は引っ込むが雄一は少し遅れて後退しようとした。

雄一が後退するのを待たずに案山子は徐に手榴弾を取り出し上空に向かって投げた。

手榴弾は大きな弧を描き、ミレンの後ろに届いて地面にぶつかると派手な音を立てて爆発した。

その爆発の被害をモロに受けたミレンの鎧が吹き飛び、その破片が雄一に降り注ぐ。


「うぉ、イブリース!」


破片が雄一を傷つける前にイブリースが空気を切り裂くように剣を一閃させ、破片を振り払った。
破片を飛ばした一陣の風は豪風となりミレンを襲い、一体の装甲を破壊した。

その間に雄一はある程度後退する。
手榴弾の威力に前衛勢は血の気が引くのを感じた。


「…流石案山子」

「あれには当たりたくないなー」


夕輝と尋が驚嘆とも呆れとも取れる声を上げるが案山子は納得のいかない様子で顔をしかめていた。


「あと2体は吹っ飛ばす予定じゃったんじゃがの」

「おい!案山子なんか言うことあるだろ!」


被害を被った雄一は案山子をギッと睨んだ。すると案山子は一つ咳払いするとぱちんとウィンクをした。


「僕ちんドジしちゃったぁ!ごめんねん」

「誰が許すかッ!」

「おおいびせぇのう。女の子にはもっと優しゅうしたほうがええんじゃぁない?」

「和彦、把握はできましたの?」


2人の言い合いを気にかけることなく一は再び通信機に声をかけると朗らかな声が帰ってきた。


『うん、今終わったよ…今戦ってるのはミレンデュラハン型。弱点は炎、雷属性。氷属性の攻撃はあまり効かないね』

「ありがとう和彦。バルドル、やるぞ」


夕輝の呼びかけに応じた彼の守護霊、バルドルはニコリと微笑みその手を前方へ向ける。
バルドルの手にビリビリと青い光が集まる。完全に集まるとそこから無数の光の線がミレンたちに放たれた。


全体に降り注いだが、1体の装甲を壊し、2体の装甲なしのミレンを散らしたのみに終わった。

『2体撃破。残り5…ッ?!なつッぐぁ、』


突然の和彦の呻き声に一同は通信機に注意を向ける。
通信機からはフェンリルのものと思われる犬の唸り声と銃声が聞こえてくる。


「な、和彦先輩!夏羽先輩っ!返事してください!」


深雪が必死に呼びかけるも返事はなく、尚も銃声と鈍い金属音が響いている。


「ダメですわね。はやくこちらを片付けて援軍に行きましょう」

「…すぐに助けに行かなくていーの?」

「大丈夫だ」


尋の問いに答えたのは雄一だった。


「フェンリルとアポロンの特殊能力は強力だ。その場凌ぎぐらいは2人でできる」


雄一の言葉に頷いた一はすぐに注意をミレンに戻す。いつの間にか現れていたモンチュは一の斜め前に立つと臨戦態勢ををとった。


『アーアーアー聞こえますかァ?』


その時だった。銃声しか聞こえなかった通信機から夏羽の声がした。

一同がほっと息をつく中、ミレンの攻撃をモンチュの炎で受け止めた一は緊張の糸を緩める様子もなく静かに問いかけた。


「夏羽、和彦何があったのです?」

『こっちにもデュラハン型がイッパイきたんだよォ。』

「えっ?大丈夫なの?」


ミレンの踏み付けを避けつつビテュニアは問いかけた。
夏羽は気まずげに声を潜める。


『ダイジョーブ。和彦がかすり傷作っちゃっただけだしィ、来たのはミレンだけじゃ』

『てめぇら邪魔なんだよクソ兄貴と一緒に死ねオラ』
『あ"?お兄様と呼べや雷落とすぞ』
『オッサンやっちまえ!火炎放射!』
『できねぇっつっただろ!』
『怪我直しますからっ』
『大丈夫だよー。ありがと』
『あっち行ってください!!』


『うわこっちきたァ。一旦切りまァす』


ブツリ、と通信が切れる。
その場にいた全員はなんとも言えない顔をしていた。


「…向こうは大丈夫でしょうから、さっさと片付けましょう」


一同は頷くと目の前の敵に再び対峙した。





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