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- 疾風のようにビルとビルの間をすり抜ける2つの大きな影、フェンリルとオリアスは目の前を横切った謎の生物を追いかけていた。
ピンクがかった甲殻類のような胴体を持ち、膜が張った翼をはためかせ飛ぶそれは街の中心部に近づくにつれてどんどんと数を増やしていった。
「Wow!Wonderful!」
「ワンダフル……ですか?」
「あぁんもう!よけないでよぉっ!」
頬を紅潮させて興奮気味に叫びながら発砲する朔斗を見てペリクレスは若干引き気味に言った。
しかしその声も朔斗には届いていない。
「バッシーは元気やねぇ」
「ああ言うの、好きだしィ…」
だいぶ落ち着いた夏羽は冴得の言葉にに苦笑を返した。いつもならば一緒に乗って和彦たちをひぃひぃ言わせる夏羽だが、今回は流石に気力がないようだ。
と、耳元からピーピーと無機質な音が聞こえてくる。通信機だ。
「ハァイこちら夏羽でェす」
『一です。無事和彦と合流しました』
「あー!一ちゃぁーん!ごめん俺いそがしーから、ぺぺ君に預けるねーん!」
「何ッ?!」
突然押し付けられた通信機を返却しようと後ろを振り返るが、オリアスの肩を掴みその後ろからにたにた笑いながら銃を連射する朔斗を見てペリクレスは渋々通信機を耳につける。
『……貴方は何を追っていらっしゃるのです?』
「あ、見えてたァ?よくわかんないやァ。ぺぺ君何か知ってる?」
「…いや。何も。ただ、K殿からミレンではない、ということしか」
その言葉に夏羽と一は黙り込む。
ミレンではないとしたら一体なんなのか。
「弱点なども殆どわかっていません。ただ、氷系の術は効きにくいようです」
『わかりました』
「そっちはいまどうですかァ?」
『芳しくありませんわ』
「ナツちゃん、あそこ」
冴得に促され遠くを見る。すると一軒のビルが真っ黒な何かに取り囲まれていた。先程まで夏羽が居た街の中心部だ。
前よりも黒は後退しているが、その数はむくむくと増えている。
「アチャア。もう着いちゃうよ」
『わかりました。迎撃します。数を報告なさい』
きっぱりと言い切った一にペリクレスは息を飲む。
夏羽はにやり、と笑うと目の前の生物を見やった。
「えーとォ…8」
『わかりましたわ。他に何か?』
「…あ。あの」
ペリクレスはそこでふと思い出した。
自分たちがあの生物と対峙した時、冴得は眉をひそめ、朔斗はきらきらと目を輝かせ、自分は気持ちが悪い、としか思わなかった。
しかし夏羽はどうだ。足は震えその場に縫い付けられ、攻撃力に関してはオリアスに勝るフェンリルに至っては尾を丸めて小さく唸っていた。
それを告げると一は少し黙ってから言った。
『了解しました。こちらも十分注意しておきますわ。夏羽、体調は?』
「おはずかしィ。今はぜェんぜん平気ィ」
『ならいいです。無理はしないように』
それを最後に通信はぷつん、と切れた。
「なんだかんだ、優しい人だよねェ」
その声に呼応するように、フェンリルは1つ吠えた。
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