とある記者の1日眼が覚めた石沢啓太は見覚えのない白い天井を薄ぼんやりと見上げた。
「啓太!」
「石沢くん!」
その瞬間に飛び込んできた2つの声と2つの顔。鈴木西亜と鈴木東夫妻。2人は高校の同級生だった。
「…ここ、は…?」
「病院だよ。あれから2日間ずっと寝てたんだ」
西亜の言葉に啓太はあの地獄の日々を思い出してしまった。幾つも浮かぶ爬虫類の瞳、地下に潜むまさに鬼のような異形、そして、
「巫女服……」
「巫女?」
「その話はやめよう」
なんであの時あんな格好をと聞こうとした啓太の言葉を西亜はやんわりと止めた。
彼らがまた来るから、と言って帰ったあと、青い空を映す窓に目を向ける。
自分はきっと世界の真の姿を見てしまったのだ。あの瞳、あの生き物、あの異形たち。
白蛇の会がまさに異形の巣窟だったように、自分たちすぐ近くにきっと彼らは潜んでいるのだ。世界の裏側の、本当の姿をした彼らが。
そして彼は思い出した。酷く混沌とした文字の羅列、その中に差す一筋の希望の光…【蛇神】
彼もまた、裏側の世界の、真の世界の住人なのだろうか。啓太の背すじが薄気味悪さと好奇心で凍る。
ああ、早くキーボードを打ちたい。この虚実のような事実をパソコンの画面に打ち付けたい。
と、病室の扉がノックされる。こちらが返事をする間も無くガラリと開き、三日月に歪む瞳の男と何も映さない空虚な瞳の男が入ってくる。
「石沢啓太さん。今回の依頼を任されておりました、『羽星探偵事務所』の者です」
三日月の男がにぃやりと嗤った。
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