報われない恋に苦しむ僕
お前を救いたいんだ。お前の苦しみを取り除きたいんだ。
そう必死に俺はお前に手を伸ばすけど、お前は俺なんか眼中になくて気づいてくれやしない。
ねぇ、お前の目に映ってるのって誰なの?俺を透して誰を見てんの?
「ルキア、帰ってるのか?」
1時間くらい前、浦原さんの所に行くと言って日直の仕事を押し付けたくせに、浦原さんの所に迎えに行ったらいなかった。あげくのはてに「朽木さんなんて来てませんよ〜」だと?
あれ?俺無駄足じゃん。
だからルキアの姿を見たら文句一つでも言ってやろうと思ってた。
んで帰ってみたら確かに今コイツはいた。
だけどいつもの藍色の瞳は閉じていて俺のベッドの上で寝ている。
うん、無警戒という言葉が今のコイツにはぴったりだ。
考えたことないだろーな。俺がどれだけ理性抑えるのに必死か。何回無意識にお前に触れようとして、手を引っ込めたか。
ルキアさん、俺はまだまだ青いガキでヤりたい盛りな少年ですよー。あんたはそんな男のベッドで寝ているんですよー。
心の中で悪態をつくがもちろんコイツが気付くわけもなく。
せめて寝顔くらい見ても許されるだろうと覗きこんでみたらコイツは眉間に皺をよせて、明らか苦痛の表情を浮かべていた。
うなされてる?
「お、おい?ルキア!」
何回か揺さぶり名前を呼ぶとゆっくり開かれる目。
目を覚めたことにホッとして“何うなされてんだ”と茶化そうと思って口を開こうとしたらアイツは焦点の合わない目で俺を見て涙をこぼした。
「ごめん、なさい」
涙を流しながらアイツは何回も謝ってくる
「に、日直のことか?別に気にしちゃい「....ど、の...」
「え?」
「かいえんどの」
ルキアはその名前を呟いてずっと謝ってくる。
今視線は俺に向いているのに、コイツが見ているのは誰だ?
俺は今お前の中にひとかけらもいないの?
この時俺はどうにかしてルキアの中に俺の存在を気付いて欲しかった。
ギシッとベッドが軋む音がやたら響く。
その音がやたら非現実に感じた。
「お前さ、わかってんの?」
お前は今俺に押し倒されてんだよ、ヤられかけてんだよ。
“かいえん”じゃなくて俺に。
押し倒されてもコイツの様子は何も変わらない。ただ、謝るだけ。
いつもみたいに『たわけ』って言ってぶっ叩いて俺を止めろよ。止めねーとマジでヤっちまうよ?
謝るばかりの口を塞いでやろうかと思い、顔を近づけてやった。
「かいえんどの?」
唇が重なる直前に再度呟かれる名前。
その瞬間さぁーっと頭が冷えていくのがわかった。
意味がないんだ、こんなこと。
「ごめ...ん、なさい。かいえんどの、ごめんなさい」
「ルキア、もういいから。」
抱きしめて、涙を拭うことしか今の俺には出来ないんだ。ここでコイツを抱いても決して“かいえん”じゃなくて俺を見てもらうことはないんだ。
「ちくしょう」
彼女を抱きしめながら自分も泣いた。初めて女を想って泣いた。
“何を好き好んで他の男を想っている好きな女の涙なんか見なきゃいけないんだ。なんで俺を見てくれないんだ。どれくらい強くなれば俺を見てくれるんだ。”
そんな、悔し涙。
たぶん明日こいつは今日のことを覚えていない。俺もなにくわぬ顔で過ごすんだ。
“かいえんどの”という言葉を聞きたくないから。自分が泣いたことを思い出すから。
あーあ、本当にかっこわるい。
泣き疲れて再び目を閉じたルキアを強めに抱きしめて涙を拭いた。
END