夜の貴女に愛の手を5




「一護知ってたか?今日オーナーが来るんだってよ。」



“粗相ないようにな”と俺の肩を軽く叩き、海燕さんは指名のテーブルについた。

オーナーって前恋次が言ってた胡散臭い奴だよな?ルキアさんのこと唯一知っているという。



・・・・仲良くなれそうにねーや。





「何眉間に皺を寄せている?」

「うわああルキアさん!」

「貴様、私が話しかけるたびに驚かれている気がするが、私は妖怪でもお化けでもないぞ。」

「いや、妖怪でもお化けでもルキアさんなら俺はいいです。」

「わけがわからないが、そんなことより一護、貴様に指名だ。」

「え、ちょ、マジですか!」

「ホスト初来店らしい。可愛らしいし、いい子に見えるし貴様も喋りやすいと思う。頑張ってこい。」






本音を言わせてもらうとルキアさんのヘルプで彼を見ていたかったが、頑張ってこいだなんて言われたら頑張るしかない。
しかも初指名だ。失敗なんかしたら教育係のルキアさんの顔に泥を塗ることになる。
あ、ヤバい緊張してきた。いやいや手に人の字書いて頑張れ俺!



しかし席に向かった俺を迎えたのは見知った奴らだった。













「黒崎君、こんばんは!スーツ似合うねー。」

「嫌な意味でね。」

「い、井上とたつき!?」






井上はにっこり、たつきはニヤニヤとした笑顔で俺を迎えた。

たつきとは所謂幼なじみで井上はその親友。同じ大学だし、俺にとって数少ない女友達だ。


で、何で二人がここにいるんだ。






「恋次に聞いたんだよ。一護がホストやっているって。」

「うん!だから面白そうだし見に行こうってなったの。ほほーこれがホストクラブというやつですな!井上織姫初体験であります!」





井上はキョロキョロと興味深そうに辺りを見渡す。
ちょ、あんまりソファーから乗り出したら危ない・・・

と言う前にソファーから転げ落ちる井上。ゴチーンとコントのような音が響きわたり、客とキャストの視線が痛い。







「お、織姫、大丈夫!?」

「たつきちゃんが3人くらいに見えるから大丈夫だよー。」

「大丈夫じゃないからそれ!」







そんな騒然とした空気の中、ルキアさんが濡らした冷たいタオルを持って井上に駆け寄った。








「大丈夫ですか?良かったらお使いください。」

「え、あ、ありがとうございます!!」





最初は呆けてルキアさんを見つめたが、すぐにガシッと勢いよくタオルごと彼の手を握る。
そんな彼女に一瞬驚いたようだが、慣れているのかルキアさんは笑顔で“早く冷やさないと痕残っちゃいますよ?せっかく綺麗な顔をしているのだからもったいない”と素晴らしい殺し文句。
しかしそう言われても手を離そうとしない。むしろさっきより強く握りしめ、目を輝かせている。そして大きな声で言い放った。








「あ、あの一目惚れしました!!」








さっきとは別の意味で辺りが騒然とした。

井上、お前今何て言った?







「ちょっと織姫何言ってるの!」

「お名前は何て言うんですか!?」

「いやいやだから織姫落ち着きなさい!!」

「・・・・ルキアと申します。申し訳ないのですが、早くお顔を冷やして差し上げたいので、手を離していただけますか?」

「うわぁ!すみません!」





慌ててやっと手を離す井上。そんな井上にルキアさんはにっこりと微笑んで、おでこに冷たいタオルを当てる。

・・・・俺もどこかで頭ぶつけてこようか、ってそうじゃなくて!井上がルキアさんに惚れた!?






「井上ちょっと待て!何でいきなりそうなるんだ!」

「いやビビっときたわけですよ、黒崎君。これは運命だと思いまして。」

「俺だって初めて会った時からビビっときてるんだよ!俺の方がルキアさんに惚れてる!」






ホストたちの間で歓声が上がった。口笛を鳴らす音も。







あれ?俺今何口走ったんだ?





“じゃあ黒崎君とはライバルだね”と笑顔で言っている井上の声だけはかろうじて聞こえる。
ルキアさんなんて見れたもんじゃない。

うわ、何この状況。












「ホストと姫でホストの取り合いとは面白い光景ですねー。」





こんな状況に似合わないへらへらとした声で金髪の怪しげな男がこの場に入ってきたことに今の俺は気付く余裕がなかった。


END

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