海と単純思考
ジリジリと蝉がうっとおしいほど鳴いてクソ暑い。
こんな日はクーラーをきかせた部屋で冷たいジュースを飲みながら、ゆっくり過ごすのが俺流だ。暑い日に海だ、プールだ、祭りだ的な人が如何にも好みそうで間違いなく混んでいる場所になんか行きたくない。特に海だなんか海水でべたべたするし、後始末が大変だし、俺の中で夏に行きたくないスポットNo.1だ。
・・・・なのにだ。
「うっ!みっ!だああ!」
「うるさいですよ、浅野さん。」
そのうっとおしいほど大音量で声を発している友人とそれに冷静につっこむ別名支配者と、それに続いて後ろでやる気満々にラジオ体操をしているのはルキアと井上。
んで俺は水着姿だ。
あれ?
「なあ、石田。俺さ、海嫌いなんだけど。」
「奇遇だね、僕もさ。」
「何で俺らここにいるの?」
「さあ?」
事の起こりは夏休み前日の始業式、啓吾が「夏といえば海!ということで海行こうぜ!」と俺らのグループを集めて宣言したことから始まった。勿論俺は断ろうとした。しかし、どこかの猫かぶり女が「行きますわ」と答えやがった。必然的にルキアが行くなら俺もってことになる。言っておくが、その意味はあいつが何かしでかさないかという保護者的な意味だ。水着が見たいとかいう下心は・・・なかったわけでもない。まぁとにかく間違いなく迷子になったりだとか、溺れたりだとかしそうだもんアイツ。
「・・・・黒崎、一つ聞きたいが海に行くのにその大きな荷物は何だい?」
「いや、だってタオルとか多めに持ってきた方がいいしそれにルキアさ、プールの授業で泳げなかっただろ?だから浮き輪とビート板と、ああそれとこれ凄くね?救命胴衣。わざわざ通販したし。これを常に羽織ってたら溺れる心配はまずねーよ。
あ、おいルキア!ちゃんと日焼け止め塗れ!!」
「・・・・いきすぎた過保護は少しうざがられると思うんだけどね。」
*
「別にこれは義骸だ。そんなに気にしなくてもいいと思うが。」
「今日お前日焼けで痛くて風呂入るの辛くなっても知らねーぞ。」
「それは困るな。丹念に塗るのだぞ。」
「ああ。」
「胸は自分で塗るからな、クソ餓鬼。」
「わ、わかってるよ!」
ルキアはクスクスと笑いながら“残念そうだな”と言った。
別に残念では・・・いや多少は残念だ。てかこの水着、紐かよ!きわどい、きわどすぎる。多分浦原さんの仕業か。
あれ?というか何で俺がルキアに日焼け止め塗ってるの?ああ、これが石田のいういきすぎた過保護か。
だけどこんな細っこい背中とか見るとどう見ても妹くらいの体格だ。そうだからどうしても手を出したくなってしまう。あ、手を出すってあっちの意味じゃない。
「くーちーきーさん!ビーチバレーしようよー!」
「ああ今行く!では一護、日焼け止めありがとう。」
井上の元に元気よく走り去っていくルキア。
俺<井上かよちくしょう。
これは娘が友達と遊ぶからお父さん着いてこないで!的な感じか。いやルキアは娘じゃなくて彼女だけどね。
「フラれたの、一護。」
「水色・・・別にフラれてねーよ!」
「まぁ女の子の友情に男が出るのも野暮だしね。それより一護、その無駄に大荷物どうするの?」
「置いて帰ろうかな。」
*
気付いたら俺はパラソルの下で寝ていたみたいだ。一体何の為に海に来たんだか。いや、来た理由の奴が他と遊び始めたんだから仕方がない。本当海なんか嫌いだ。
「黒崎、やっと起きたのか。」
「石田、お前も寝てたのか?」
「君と一緒にするな。ていうか、僕も寝ていたということは君の隣で寝ていたということになる。僕達がレンタルしたパラソルは1つしかないんだから。」
「うん、気持ち悪いそれは。ていうかルキアは?」
「全く起きたそうそう朽木さんかい?君は。朽木さんなら泳ぎに行ったよ。」
「はあ?アイツ泳げないんだぞ!」
「浅いとこなら大丈夫だろう。そこまで過保護だと病気だね。」
・・・・ぐぅの字も出ない。
過保護で悪かったなちくしょう。
だけどアイツ泳ぎに行ったのか。やっと浮き輪とかの出番だったのに俺寝てるってあり得ない。あ、もはや枕にしてたよ、自慢の救命胴衣。
「あ、黒崎君起きたんだ。」
「一護、海まで来て昼寝かよ!昼寝するくらいなら俺に構ってくれたって良くね?」
「浅野さんを構う時間の方が無駄ですよ。」
「あああ敬語止めて頼むから!」
「あれ?ル・・・朽木は一緒じゃねーの?」
「朽木さんならもうちょっと泳ぎの練習しとくって。一護行ってきたら?その大荷物、使うなら今しかないよ?」
ニコニコと楽しそうに水色が言う。そうだ、俺は海に寝に来たんじゃない。
大荷物を持って海に走り出す。そうだ青い空、青い海満喫しないでどうするんだ!海が嫌いだなんて言っていた数時間前の俺さよなら!
*
ルキアを探すとすぐに見つかった。だが、浅いとこにいない。アイツの肩が見えないくらいの深さのとこにいる。
「ルキア!お前泳げないんならもっと浅いとこで泳げ!」
「一護?く、来るな!!」
来るな、だと?
一瞬ショックを受けたが、ルキアのいる場所を考えると後もう少し後ろにいったら間違いなくルキアじゃ足の届かない深さにまでなる。そうなる前にアイツを連れ戻さないといけない。
俺はルキアに近づこうとするが、ルキアは俺が近づく度に離れる。いやいや何やっているんだこいつは。
「お、お前はひとまず帰れ。私も後で行く。」
「意味わかんねーよ。ほら、泳ぐなら浅い所で・・・」
「や、止めろ一護!」
手を伸ばしてルキアを無理やり捕まえて引き上げる。
バシャン
が、すぐにルキアをまた海水へ押し戻す。
「・・・・お前、上の水着どうした。」
「・・・・気付いたら流されてしまった。」
海水がやたら冷たく感じる。そうか俺が身体が熱いからか。
見た、見てしまった生胸。意外とあった。まな板じゃなかった。付き合っていてもまだそんな関係ではないわけで、見たのも初めてであって、ああこんな時世の中の男はどういう言葉をかけるのか。てか初めて見た時がベッドではなく海のど真ん中だなんて奴、俺だけな気がする。
「とにかく上隠さなきゃな。何か持ってくるわ。」
うわー素っ気ない俺!もっとマシな言葉なかったの俺!
ルキアの顔が何か不機嫌になったのは気のせいではない気がする。もしかして誘ってくれてたのか・・・・いやないないそれはない。ポジティブ思考すぎた。
まぁとにかく今は上を隠せる物を早く持ってこないと他の奴に見られるかもしれない。そんなのは絶対ごめんだ。
*
「一護、これは何だ?」
「救命胴衣だ。」
「何か目立っている気がするんだが。」
「気のせいじゃね?」
気のせいではない。浜辺に上がった俺達は明らかに目立っている。救命胴衣って普段使いは向かないな、と学ぶ。まぁ使用方法は明らかに違うだろうが役に立って良かったな、救命胴衣。
「一護、ありがとう。」
「え。」
「貴様がいなかったら私はあのまま海の住人になっていたかもしれない。」
「海の住人ってなんだよ。泳げねーくせに。」
「うるさい!でも、見られたのが一護で良かった。」
え、と言った時にはもう遅くルキアは井上の所へ走ってしまった。
どう意味かだなんてルキアにしかわからないけど、見られたのが俺で良かったということは、言葉の意味のまま受け取っていいんだよな。
うえっへへ・・・
「いっちごぅぅぅ!!何気持ち悪くにやついてるんだよ!ってこんなとこに海藻が!!」
振り向いた時、啓吾が海藻に滑って転けていった。そして啓吾の手が俺の海パンを掴んでいる姿をスローモーションのように目で捕らえた。
あ、という暇もなく俺の海パンはずり落とされた。
ああここが浜辺でなく海の中だったら良かったのに。
*
「一護、俺わざとじゃないんだぜ?だからお願いだから口聞いて!」
わざとだったらしばいている。わざとじゃなくてもしばきたい。
「啓吾、そっとしといてあげたら?さすがに浜辺のど真ん中でさらけ出したら放心になるでしょ。」
気づかっているような言い方だが顔が笑っているのを俺は知っている。本当そっとしといてくれ。
「黒崎、普通男子は水着の下にサポーターを着て見えないようにしておくものだよ。」
石田、お前うざい。
「黒崎君気にしちゃだめだよ。そんな経験できることじゃないし!」
何回も経験してたまるか!井上の天然発言も今ばかりは苦しい。
「一護、私にはわかるぞ。お前の気持ちが。だからあまり気にするな!」
お前、海の中。
俺、浜辺。
その違いはでかいんだよ。
帰りの電車の中、フォローとは決して言えない言葉が飛び舞う。ああもう頼むからほっといてくれ。
結論、やっぱり海なんか嫌いだ。てかトラウマになりました。
「なあ一護。」
「なんだよ。」
「今度は二人で来ような」
うん、こいつの一言で海最高と思った俺はやはり単純だ。
END
鳩田様お待たせしました。海かプールでいちゃつくイチルキの筈がいちゃついてない\(^o^)/
ポロリを実行させたかっただけになりました←
しかも下ネタなポロリという悲惨さで申し訳ありません←
こんな駄作ですが、よろしければ受け取ってください!相互ありがとうございます^^