夜の貴女に愛の手を4
眠たい。
だがテスト前のこの講義はなんとしても聞いとかなければならない。
俺の本業って学生だよね?と自分で叱ってやりたいほど、最近俺はホストクラブ・ソウルソサエティに入り浸っている。理由は単純明解でルキアさんに一目でも会うために。うわ、俺異常。
今まで女と付き合ったことは何回かあるけれど、ここまで会いたいと感じたことはない。何なんだこの感じ。
....いやいやあくまで憧れだから。決してホモじゃないよ俺、と自分を誤魔化すがルキアさんに会うたびに上手くいかない。
あれ?もう俺ホモ決定?
*
「一護、さっきの講義のノート見せてくれよ。寝ちまってさ。」
「嫌だ。てか俺は恋次より出勤してんだから俺の方が寝不足だっつーの。」
「ケチだなお前。あ、なら交換条件でどうだ?お前の“憧れ”のルキアさん情報と。」
「ほら、ノート。」
「早っ!」
「で?さっさと教えろよ。」
「まぁ焦んなよ。」
恋次はノートをしまいながらニヤニヤ笑ってくる。うわ、うざいマジうざい。
こいつはコーヒーを一口飲んで一服してからやっと口を開いた。
「ルキアさんってさ謎に包まれてんだよな。結構長いこと働いてんのに住んでるとこも、年齢も本名も誰も知らねーんだよ。オーナーは知ってるらしいんだけどな。」
「オーナー?」
「あーお前は俺が紹介したから面接なかったんだっけ。オーナーに会ったことないはずだわ。まぁ胡散臭いから俺は好きじゃねーけど。」
「ふーん。」
「で、そんな謎のベールに包まれたルキアさんには色んな噂が飛び舞うわけだ。
中でも一番多かったのは“ルキアさん女説”」
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出す。
ルキアさんが女だと?
おっしゃあああ!
俺はもうこれでホモじゃない!
俺は正常だったんだ!
「あのさ、ガッツポーズしてるとこ悪いけど、噂だからな。噂。」
「え、あ、そーですよね。」
「まぁあんな可愛い顔してるってのもあったとは思うけど噂を有力にさせたのはルキアさんは絶対人前で着替えないのが大きかったな。いつもちゃんとスーツで出勤してくるだろ、ルキアさん。」
確かにソウルソサエティのメンバーは大抵私服で出勤してくる。まぁ俺としても何となく仕事外の時間でスーツを着て街を歩きたくない。
「で、噂を解明しようとする奴らがいてルキアさんを取り押さえて服脱がそうとしたんだってよ。寸前でオーナーが来て何とか止められたけどな。」
「なっ!!誰だよそんなんした奴は!?」
「その件でクビになってもういねーよ。だから安心しろ。」
そう恋次に宥められたが、怒りをそう簡単に抑えられそうになかった。いつのまにか気づかない内にコーヒーの缶を握り潰していた俺に恋次は苦笑いをする。
このどす黒い感情はいつまでたっても消えそうになかった。
*
「一護どうした?何時にもまして眉間のしわが酷いぞ?」
ルキアさんが心配そうに上目遣いで見てくる。いつもなら頭の中が花畑になるが、あんな話を聞いてしまった後では何処と無く気まずい。
俺はルキアさんといる時間が自分が仕事を始めてからどんな奴よりも長いと思っていた。なのにそんな事件があっただなんて知らなかった。
よく考えたら話しているのは俺のことでルキアさんの話なんてしちゃいない。
ただの俺の一人相撲。
ちらりとルキアさんを見て、改めてその小ささに驚く。妹と変わらない身長と華奢な肩幅。
抱きしめたい、と一瞬だけ思ったがそんなことをする度胸は俺にはない。ああなんてヘタレ。
てか抱きしめたいってもう確定じゃん。
俺は彼に惚れてしまった。
「ほら、お姫様の前でそんな怖い顔をしたら承知しないぞ。お前は笑っていた方がいい。」
ルキアさんはそう笑って仕事に戻る。
相変わらず小さな背中で、その背中は遠かった。
この日俺はホモ確定と同時に彼との距離を知ったんだ。
END