愛と憎しみは紙一重
魅ぃちゃんがもう動かなくなった。
動かなくしたのは私の大好きな人で、その人は私にも刃を向けてくる。ああ殺されてしまうんだって直感的に思った。
だけど不思議だね。全く怖くないんだ。ほら証拠に私は笑えてる。
だって彼は怯えてるだけだから。すぐに優しくて面白い彼に戻ってくれるだろうから。
信じてるよ、圭一君。
だんだん痛みで感覚がなくなってくる。
“女の子を殴っちゃ駄目なんだよ!”って彼が戻った時教えてあげなきゃ。 彼はきっと必死で謝るんだろうな。だけど私は許してあげる。そしていつも通りに学校一緒に行って、勉強して、部活をするんだ。そんな素敵な日々を取り戻すの。はたから見たら平凡なのだけれど私はそれが幸せなの。平凡な日々が大好き。
圭一君はまだ怯えた目から戻らない。むしろさらに怯えている。
ああそうか、信じてあげるだけじゃ駄目だよね。信じさせなきゃ。
私はめいいっぱい両手を開いた。彼が戻った時抱き締められるように。
だから、ね
“私を信じて!”
圭一君がバットを振り落とす動作がスローモーションに感じた。
*
何を言っているかわからないよ、圭一君。
私が強い子?そんなわけない。今だっていつ首をかきむしって死んでいくかわからない恐怖に怯えている。貴方に何がわかるの?
私は雛見沢を救うんだ。
幸せな平凡な日々を取り戻すんだ。
それがわからない可哀想な圭一君。大好きだったけどしょうがない。すぐに楽にしてあげる。
私がライターで脅しても鉈を振り落とそうとしても圭一君は動かない。“命くらいくれてやる”?命はあげるものじゃないよ、圭一君。
怖いなら逃げてよ。私に従ってよ。今の私なら本当に殺しちゃうから。
それでも動きを変えない彼。私はそれが煩わしくて鉈を振り落とした。
鉈を振り落とす瞬間圭一君の目を見た。
私はこの感じを知っている?
何故かわからないけど“駄目だ”と思って慌てて刃ではなく峰打ちに変えた。
峰打ちに変えても圭一君の頭からは血がポタポタと床に落ちる。
何で殺せなかった?
自分の弱さを嘆く。こんな弱い私が雛見沢を救えるの?いや、救わなくちゃ駄目なんだ。
弱さを捨てろ
情を捨てろ
感情を捨てろ
強くならなきゃ、彼を殺せるくらいに。
だからさよなら大好きな圭一君。
END