麗しきデザート
「蓮二、食堂に付き合ってくれないか?」
「珍しいな。弦一郎が食堂なんて。」
立海大付属中学校の食堂は生徒の中でなかなかの評判だ。
普段は母が丹精込めて毎朝作ってくれる弁当があるが、今日はその母が友人と旅行に行っていて弁当がない。だから必然的に食堂を利用することになる。
実をいうと少し、いやかなり食堂とやらの定食を食べてみたかった。もちろん食堂の味なんて相場が決まっている。食堂の飯にはそこまで期待はしていない。だが、ここの食堂には食後に甘味がついている。
自分が甘味を好むことを知る者はなかなかいない。母でさえ昔から甘味が苦手だと思っていて、弁当に周りの子供のようにゼリーなどの甘味を入れてくれなかった。そして自分も母の考えを踏みにじるのもどうかと思い、言わなかった。
だから食後の甘味の憧れが人一倍強かった。それがついに今日叶うのだ。
「....弦一郎、食券を早く買え。後ろがつまっている。」
「あ、ああすまない。」
蓮二につつかれながらA定食とかかれているボタンを押す。
ふとメニューを見ると今日のA定食の甘味はプリンらしい。
ああ麗しきプリンなるもの!我が初めての食後の甘味になんと似つかわしい。
期待に胸が震える。テニス以外でこんな気持ちになるのは久しぶりだ。
高鳴る気持ちを抑え本来なら主役といえる鶏の唐揚げを食べる。本当はプリンを早く味わいたいが自分が憧れなのは食後に食べる甘味。先に食べてしまっては意味がない。
「ゴホッゴホッ!!」
「弦一郎、焦って食べ過ぎだ。」
なんたる失態。普段ならば50回はよく噛んで食事をするのにこの様か。断固たる精神を身につけたと自信を持っていたがその自信を覆されるとは流石プリンたるもの。
「あー!!副部長が食堂だ!」
いざプリンというところである意味可愛さ余って憎さ100倍の後輩がきた。もう昼食を済ましたようで空の食器がのったお盆を持っている。
「赤也、食堂で大声を出すな。」
「相変わらず固いッスね。結構食堂うるさいですから俺の声なんて目立たないでしょ。」
なかなか反抗してくる。普段なら張り手の一発くらい食らわすが今はプリンの方を優先したい。
「赤也、食事が済んだなら教室に....「あっ副部長、プリン食べないッスよね。」
一瞬何が起きたか理解できなかった。呆けた間にプリンは封を切られ赤也の口へ運ばれていった。
「んまーい!副部長、甘い物なら俺呼んでくれたら食べるんですから残しちゃだめッスよ!」
い つ 残 す と 言 っ た ?
もちろんそんな心の言い分を空気が読めない赤也がわかるはずはなくプリンはたったの3口でなくなった。
「あっ俺今日当番だった!んじゃ副部長、柳先輩また部活で!」
カランと空の容器をテーブルに置き、こいつは意気揚々と去っていった。
この身体の震えは怒りなのか悲しみなのかわからない。
わかっているのは夢が潰えたことだ。
「フ....ハハハハ!!」
「うるさいよ、弦一郎。」
同じくA定食を頼んでプリンを楽しんでいる蓮二の鋭い視線を浴びながら、俺は赤也に今日の部活は特別メニューを用意してやろうと決意した。
END