安っぽい挑発




「伊東先生えええ!!」










近藤君に隊員に剣道を教えてほしいと頼まれた。
道場に行ったはいいが気付いたら酒盛りが始まっていて、頼んだ本人は顔を真っ赤にしながら僕に抱きつく始末。うっとおしいことこの上ない。だけどそれよりうっとおしいのは土方君と沖田君の視線だ。



それほど好きなのかい、この人が。と思わずため息をつく。僕だって好きでなったわけではないんだがね。だけど自分のことしか目に写っていない彼らには気付かない。



本当に疎いよ君達は。
大将ばかりを見て“敵”を冷静に見つめようとしない。
子供の感情でしか“僕”を見ない。



ああなんか苛立ちを感じる。










「近藤さん!!」






土方君が叫んだがもう遅い。もう僕の木刀は近藤君の首元だ。

呆気にとられた表情で僕を見つめる近藤君。君も人を信じすぎだ。









「近藤君、もう一手お願いしてもいいかな。」








笑顔でそう呟く。呟かれた本人は呆気にとられた表情から変わって笑顔になり“喜んで!”と大きな声で言う。







いそいそと木刀を取りに行った近藤を見送ると瞬きする間もなく土方君と沖田君が僕に刀を向ける。









「おや、君達の息が合うなんて珍しいね。明日は雨かな。」

「茶化すな。どういうつもりだ?」

「稽古をお願いしただけだけど?」

「はっ!随分熱烈なアピールですねィ!」










殺気を込めて睨んでくるが、別に怖くも何ともない。




だって“まだ”だから。僕達が殺り合うのは。今日のはちょっとした警告だよ。

僕達が殺り合う日まで君達が潰れないようにのね。





君達の旗を真っ黒に塗り潰すのは僕の特権。他の誰かに奪われたら不愉快極まりない。











「先生、お待たせしました!お、トシと総悟も混ざるか?」







木刀をかかえて戻ってきた近藤君はこの殺気だった雰囲気を、稽古のやる気だと勘違いしたのか刀をおさめていない二人に声をかける。


少しだけ二人の苦労に同情した。


END

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