一定距離
「俺さァ、山崎のこと苦手。」
珍しく沖田隊長が潜入捜査に参加していると思っていたら開口一番でこの一言を言われた。いやいやそんなこと直接言うかとツッコミたくなるが、この人に常識なんて通じやしない。
「あっ嫌いじゃなくて苦手だから安心しろィ。」
「いや、両方同じでしょ。」
「違うよ、微妙に。」
そう言って隊長は俺を睨みつけるかの視線を送ってくる。だけどその瞳に憎しみは込められてない。何年隠密をやっているとそんな人の微妙な感情のあり方がわかってくる。
「お前さ、一線置くだろ。第三者的な。見られてるみたいで気分悪い。」
“つっこんだり、たまにバカやるのも全部計算だろ”
あーあ気付かれていたんだ。
そうだよ、計算だよ。
だけど計算って言ってもそんな悪女とかがするようなことじゃない。
俺が真選組であるがための計算。真選組を構成するがための計算。
上がバカをやらかしたら俺がつっこんで、
平和な時は俺もボケてみたり。
そうやって周りを見ながら巧いこと溶け込むんだ。
いつからそういう風に考えて行動するようになったかなんてもう忘れてた。隠密活動している時からか。いやガキの頃からだった気がする。隠密が出来ているのも皮肉だけどそれが理由かもしれない。
「苦手な理由はわかりましたけど、直せませんよ。仕事みたいなもんなんで。」
「いーよ、直さなくて。近藤さんにとってお前は必要だろうし。それに土方さんみたいに近藤さんの周りをチョロチョロうろつかねーし。」
「うわーチョロチョロって。」
「だから土方さんは嫌い。そこが“差”でさァ。」
ああ、そういうこと。
例え自分が嫌いでも局長が必要としていれば苦手。
だけど局長に近付きすぎると嫌い。
なんともまぁわかりやすい、かつ歪んだ愛情。
「せいぜい嫌われないように注意しますよ。」
だから今日もこの距離を保っていく。
END