似てると思うほど似てない
「自分の位置というのを考えていると悲しくなりませんかィ?」
さっきもらったばかりの刀を眺めながら、それをくれた狐に尋ねる。
わけがわからないという表情で自分を見てくる。まぁ普通はそうか。
「悪いが、君の言いたいことの趣旨がわからないんだが。」
「言った通りの意味ですよ、伊東先生。
あんたの今の位置。近藤さんと土方さんの後ろでしょ?
ほら、考えると悲しくなりません?」
“あんたが想っている人の隣が憎い奴なんだよ”
耳に顔を近付けてボソッと呟く。
傷ついた顔してるかなーと思ったら予想とは違って無表情だった。
「.....その二人を後ろから見つめる僕っていうことか。確かに一般的に見れば気分が悪いんだろうね。」
「あれ?あまり反応しないですねィ。つまんね。」
「同じ位置にいる人に言われてもね。君も同じ位置だろう。僕とは反対みたいだけど。」
ああ、気付いていたのか。この狐は。
近藤さんを見ている俺。
土方さんを見ている狐。
だけど相手は前を向いているから後ろを向いてくれなくて、俺達を向いてくれなくて。
ああ本当に世の中は理不尽だ。
「だけど君はなんとしても隣を奪うタイプだろう?」
「そーですねィ。あんたは違うんですかィ?」
「僕の想い方は特殊なんだよ、沖田君。
見てくれないならもう必要ない。」
「随分とあっさりな。」
「それに、僕は“僕を見ている土方”なんていらないよ。」
“僕はいつも人のものばかり欲しがるからね”
さっきとは逆に耳に顔を近付けてボソッと呟かれた。
.....性格悪いと本気で思った。
*
「何してるんですかィ?土方さん。」
堅物の副長が猫に餌をあげる姿は実に笑えてくる。隊服に猫の毛がたくさんついてますぜ。
「どっかの馬鹿が餌付けした猫共だ。くそ、居着きやがって。」
餌あげなきゃいいのに。どうせ猫は気まぐれだ。次の餌をくれる人を探すだろうに。本当、馬鹿はどっちだか。
今、この人はあの狐のことを少しでも想っているんだろうか?
だけど残念。狐は“自分を想っている土方”はいらないんだよ。
ん?
あの狐の言ったことをもう一回思い出す。
『見てくれないならもう必要ない』
『“僕を見ている土方”なんていらないよ』
見てくれない土方、見てくれる土方。どちらも必要ないと彼は言った。
なら彼は欲しいものが一生手に入らないのではないか?
なのに手に入れたい?矛盾している。
.....ああ、そうだった。自分と同じで彼は性格が悪いんだった。あまのじゃくなんだ。
本当は欲しいくせに。欲しがっても手に入らないことを知っているから欲しがらないんだ。
「....悲しい奴」
「何か言ったか?」
「いーや、何でもないでさァ。」
同じ位置のあの人に親近感がわいていた。なのにこんなにも違うんだ。
欲しがる自分と欲しいくせに欲しがらないあの人。
こんなにも大きな差があった。
「おっ珍しいな。お前が動物を撫でるなんて。」
「別に、なんとなく。」
ほら、猫という奴は気まぐれだ。すっかり餌をあげていた伊東のことなんか忘れて、また自分に餌をくれる人に媚びる。
ほんと勝手。
だけど、たぶんあの性格の悪い狐さんはこんな距離がいいんだろうけど。
遅いけど、この世からいなくなって初めて彼のことが少しわかった気がする。
そして柄じゃないけど少し悲しくなった。
END