夜の貴女に愛の手を2
NO.2
そう言われたこの人は綺麗な瞳で俺のことをジッと見て、“ヤクザ?”と呟いた。
第一印象ヤクザで決定。
*
「酒の作り方はこんな感じだ。すぐに覚えられないだろうから、ヘルプをしながら少しずつ覚えていけ。」
NO.2と呼ばれたルキアさんは、細い手でてきぱきと酒を作っていく。手際がよく、この世界が長いんだと感じる。
「まぁ酒が作れる、作れない云々よりお客様を喜ばせることが重要だな。
一番してはならぬのはお姫様達を悲しませることだよ。」
「は、はい。」
見かけに反して古風な喋り方だ。
そして見かけ通りに男にしては少し声が高い。
近くで見ると本当に綺麗な顔をしていた。
目は大きくて、睫毛が長くて顔に影が出来ている。
.....本当男にしとくのはもったいない。
「おい、お前が見るのは私の手元であって、私の顔ではないが?」
「え、ああ!すいません!」
怪訝そうな顔でルキアさんは俺を見つめてくるが、その時タイミングいいのか悪いのか、“ルキアさん、指名です”とボーイが入ってきた。
「丁度いい。やはり実戦だ。今から私のヘルプをしてもらう。」
マジですか
急すぎる展開に早くも着いていけない俺。
「ルキア!久しぶり!」
「ようこそ、乱菊殿。今日はギンでなくて良いのですか?」
「ギンとはアフターで約束しているからいいの。今はルキアと飲みたい気分なの。」
「それは光栄です。」
「あーそのオレンジの子新入り!?あはははは!ある意味スーツ似合ってるじゃない!」
金髪、そしてダイナマイトボディに圧倒され、思わず立ち尽くすが慌てて“一護です”と挨拶する。
そうしたらにっこりと“洗礼しなきゃね!”と言われた。
.....洗礼?
向こうで客の相手をしている恋次に口パクで聞いてみたが、ご臨終様という顔をして手をヒラヒラさせた。
ものすっごい嫌な予感するんですけど?
「はい!一気に飲んじゃって!」
そう言われてドンっと置かれたのはジョッキに並々つがれた酒。しかもただの酒じゃなくてめっちゃ強い酒。
間違いなく死ぬぞこれ!!
洗礼ってこれかよ!恋次があんな顔した理由がわかったぜ。
「どうしたの?飲めないの?ルキア、最近の新人根性ないんじゃない?」
酒の前で硬直をしている俺を見て、乱菊さんはため息をつく。
空気が悪くなった。
そりゃあそうか。
俺はお姫様の言うことがきけなかったから。
“一番してはならぬのはお姫様達を悲しませることだよ”
ルキアさんの言葉が頭を過る。
早速言い付け破ってどうするよ?俺。
気付いたらジョッキを手に取っていた。
*
頭がガンガンする。
目を開くのもだるい。
あれ?俺どうなったんだっけ?
慌てて飛び起きると俺は控え室のソファーに横になっていた。
「目が覚めたか。」
「あ、え、ルキアさん?あの、俺....」
「接客中にぶっ倒れたわ、たわけ。」
「す、すいません!」
「....何であんな無茶をした?普通飲まないぞ。あれはただの新人をからかっただけだ。乱菊殿は面白いことをするのが好まれる方だからな。」
「マジですか。」
「ああ。だが、倒れたにしろ喜んでおられたぞ。倒れてまで飲んでくれた男は今までにいない、と。」
「....俺はただ....」
「ん?」
「ルキアさんの言われたことを思い出しただけです。“お姫様を悲しめてはいけない”って。」
ルキアさんは一瞬ぽかんとしたが、直ぐにその綺麗な顔を崩し大笑いをし出した。
「あははは!お前はとんだたわけ者だな!だが、いい男だ。」
“よく頑張った”
微笑みながら、ルキアさんはソファーに座ったままの俺の頭を撫でた。
初めての夜は散々だったけど、この瞬間は夜も悪くないと思った俺は単純だろうか。そしてこの冷たい手を触れてみたいと思った俺はまだ酔っているんだろうか。
どうやら俺は彼によって夜の世界に囚われてしまったようだ。
END