幼なじみの距離4



「あの下睫毛がぁぁぁ!!」






と、どんなに叫ぼうが暴言吐こうがここは放送室なわけで防音完璧。なんて素敵。それだけが唯一の救いだ。



体育大会当日。何の問題もなくプログラムは進んで、今じゃ最後のプログラムであるフォークダンスだ。

んで俺は“フォークダンスで好きな人と踊ると両想いになれる”と一瞬期待させるようなことを言った下睫毛委員長から不本意なフォークダンス係を命じられた。
ジンクス以前に校庭で皆盛り上がっている中、一人音楽をかけてむなしすぎるったらない。
絶対狙った嫌がらせだろ、これ。





フォークダンスをやっているのは校庭。
放送室があるのはこれまた学校の最上階である4階のはしっこ。ルキアの姿を見るのすら不可能だ。
いや、他の男...ましてや委員長と踊るルキアを見たくないのは確かだけどさ、あまりにも悲しすぎる。







そろそろ曲が終わる。次の曲で最後だ。
CDを取ろうと手を伸ばした時、CDが俺の手に乗せられた。
CDが勝手に俺の手に乗るわけがない。




不思議に思って振り向くとそこには想い人がいた。










「る、ルキア!?」





口を塞ぐにはもう遅かったけど反射的に口を塞ぐ。

俺、名前で呼んじまったよな?









「.....このCDだよな?最後の曲は。」





ルキアは名前を言ったことをさほど気にしていないように機械を準備する。我に帰って俺も慌てて機械にCDを入れたが、心はまだめちゃくちゃ動揺している。


聞こえてなかった?んなわけないよな。いや反対に突っ込まれてもどう反応していいか困るけど。







「.....踊ってるんじゃなかったのか?」

「いや、1人じゃ大変かと思って手伝いに来たんだがな、お前が叫んでいたから声をかけづらくてな。」






.....下睫毛聞かれちゃった。


何でこう恥ずかしいことばっかりなんだ。









「下睫毛とは海燕先輩のことか?本人の前で言ったら殺されるぞ。」




“結構気にしてるんだから”と愛しそうに笑う彼女はとても可愛らしい。同時に憎らしい。

手伝いに来てくれたという嬉しさも嫉妬心で押し潰される。
本当に俺、女々しい。




ルキアも俺の放っている重々しい空気に気付いたのかそれ以上言ってこない。そういえば昔から人の気分を感じるのに敏感だったっけ。
こういうことばっかり知っているのに、ルキアの気持ちはわからない。俺のことをどう思ってるかなんて知らない。
.....意味ねーな。










お互い黙ったまま、ルキアが機械のPLAYボタンを押す。




そして俺の大好きな紫の瞳で見つめてきた。









「.....さっき、ルキアと呼んだよな?」





静寂の空気を打ち破るかのようにルキアが俺にそう問いかけた。





この空気に似合わない甘ったるいワルツのメロディが部屋中に響き渡り始めた。

それとは反対に俺の思考は止まったんだ。


END

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