幼なじみの距離3
彼女をずっと見てきた筈だった。
彼女のことを考える時間が多い人間ナンバーワンだと思ってた。
だけど彼女の隣にいる男の存在を俺は知らなかった。
「水色隊長!黒崎隊員が元気ないのであります!」
「これは恋患いですね、浅野隊員!」
「だぁぁぁうっせーぞ!」
楽しんでいる。明らかに楽しんでいやがる。
委員会初日から打ちのめされたっていうのに何を好き好んで委員長とルキアが二人で笑い合ってんのを見ないといけないんだ。サボりたいと思っても問題の委員長によって副委員長に任命されてるし。どれだけ嫌がらせしたら気が済むんだ。
10年近く健気に想ってんのに恋の神様が本当にいるんだったら恋を叶える気がないだろうとつっこみたい。
「“志波海燕”先輩。3年生で剣道部主将。朽木さんも剣道部だから先輩後輩関係だね。」
「....なんだよ、それ。」
「ライバルの情報教えてあげた方がいいかなって思って。」
「べ、別にライバルとかじゃ!」
「ふーん。さっきから志波先輩の名前をノートに書き込んどいてよく言うよ。」
自分の手元をよく見ると委員長の名前がノートにびっしりと埋められていた。うわ、俺病気じゃん。
「まぁ委員会サボらないでね。代わった僕が色々言われるだろうし。」
「結局そこかよ。」
*
「競技の順序はプリントの通りな。担当の競技の一つ前に集合して準備してくれ。忘れて来なかった奴はしばらく俺のパシリなー。」
指示を出す時はちゃんとして、だけど冗談は忘れない。うまいこと話を進めるな、この人。さすがは剣道部の主将ってやつか。リーダーシップがあって頼りになって、女の理想だよな。
隣を見るとルキアは柔らかく微笑みながらあの人を見ている。
こんな表情見たことがない。
ルキアも、こんな男がいいんだろうな。こんな風に何も伝えないでうじうじとしている男より。あっ自分で言ってヘコんだ。
「くーろーさーき!お前そんなに俺の話聞きたくねーか?今回もボーッとしやがって!」
「す、すんません。」
「よし、お前の担当競技はフォークダンスな。みんなが楽しく踊る中、お前一人放送室で音楽流すんだ!一番虚しくなる役割NO.1だ。おめでとー。」
「なっ!ちょ、」
「はーい今日の委員会終了ー!解散!あっ副委員長の黒崎は俺とパンフレット作りな。」
ドサッと大量の紙が置かれ、逃げるなんて不可能。あんまりこの人と二人きりになりたくなかったのに。
パチ、パチとホッチキスで紙をまとめる音だけが響く。なんだよ、普段はこっちがうっとおしくなるほどうるさいのに。うっとおしく感じるのは嫉妬からなんだろうけど。
「なー黒崎。」
「はい?」
「俺のこと嫌い?」
ガキンッ
ホッチキスを握りしめたらこんな音するんだな、じゃなくてどうしてこんなに直球なんだっ!
「べ、別に嫌いじゃ」
「あーなら俺がルキアと仲良しなのが気にくわないだけか。」
ガッシャン
あまりの直球攻撃に握力を失ったようだ。
落とすなよーと言いながらホッチキスを拾うこの人をまじまじと見つめる。
「お前分かりやすいよな。何?小さな頃から片思いしてんの?」
「先輩には関係な....」
いや、関係あるのかもしれない。
ルキアとこの人が付き合っていたら?
自分の彼女を想っている男なんて思い切り関係ありじゃねーか。んでお互い邪魔な存在。
ああ、本当嫌な関係性だ。こんな関係ぶち壊してしまいたい。
「好きですよ、ずっと。だからあんた相手でも諦めるつもりはありません。」
ライバル宣言だなんて漫画だけだと思っていた。まさか自分でやっちゃうなんて思ってもみなかった。
だけどもう腹を決めた。
負け確定だろうが、ルキア以外を好きになることなんてないんだから想い続けてやる。
ライバル宣言をされた本人はボケッとしていたが、直ぐにいつもの笑顔に戻って大笑いをされた。
「あーはっは!まさかお前がこんな青春ボーイだったとはな。」
「うるさいッスよ。」
「そんな青春ボーイに良いことを教えてやろう!」
“体育祭のフォークダンスで好きな奴と踊れたら、両想いになれるんだってよ”
そう言ってニカッと笑った。
こんなこと教えてくれるなんてまさかこの人....俺のことを応援してくれてんじゃ....
「まぁお前音楽係だから踊れねーけどな。」
......
い や が ら せ か
一瞬この人が応援してくれているなんてポジティブに考えた数秒前の俺、一回死んでこい。人生そんな甘かねーんだよこんちきしょう。
とりあえず今は腹いせとして大笑いしているこの人の口をホッチキスでとめてやろうか。
END