幼なじみの距離1




小さい頃さ、大人達を見て“大きくなったら何でもできる!”とか思ってなかったっけ?

で、いざ自分が大きくなってみると何でもなんかできなくて、むしろ小さい頃できていたことができなくなって。





「るきあだいすき!」

なんて素直な言葉なんか今の俺には絶対言えない台詞だよ?














黒崎一護、15才。高校1年生。
大人とも言えるし子供だとも言える年頃。大人みたいに上手く状況を乗りこえられないし、子供みたいに素直に考えられない所謂暑苦しい青春時代。



んで俺は青春時代にふさわしい恋をしている。











「一護、水色!この浅野啓吾、人生初素晴らしい拾い物をしたであります!」





朝っぱらから頭に響くような大声で駆けよってくる友人。そいつの手には何てことない普通のノートが握られていて。
うん、くだらないことだ。無視しよう。









「何それ?ノート?」

「ただのノートじゃないぜ!あの学年1の美少女、朽木さんのノートだ!」





....朽木さん?


彼女の名前が出たんならそうはいかなくなった。
なんて言ったって朽木ルキアが俺の恋の相手なんだから。





つまり、目の前にあるのは想い人のノートであって。




本当かよといいながら彼女のノートに触る。そう、自然な感じに。いつも彼女はこのノートに丁寧に書き込んでいて、時に授業中に居眠りしたときとかはこのノートにあの綺麗な顔を乗ってけたり......うわ、心臓がやばい。って変態か、俺は。







「一護、何ノート大切そうに抱きしめてんの?」

「う、うわぁぁ!」

「まさか一護、夜のオカズにするんじゃないだろうな!?てかぶっちゃけ俺昨日しちゃいました!」

「はぁ!?したのかよ!?」

「だって朽木さんが居眠りしたときこのノートに顔が乗っかるんだぜ!?もしかしたら唇とドッキングしてるかもしれないんだぜ!?」






あっ俺コイツと同レベル?いや、唇までは考え付かなかったけど。






「はいはい、貧相な妄想はいいから。てか啓吾、このノート拾ったの昨日なわけ?朽木さん困ってるんじゃない?」

「ああぁぁぁ!!浅野啓吾なんたる失態!お前らに自慢するしか考えてかなかった!」

「うわー低思考。....一護、朽木さんに返してきてあげたら?」

「ちょ!それは俺が拾ってきた....」

「だって啓吾じゃ朽木さんと面識ないじゃない。朽木さんだって警戒するよ。一護だったら幼なじみだし。幼稚園から一緒だったんでしょ?ね、届けてきなよ。」










“幼なじみ”と言われたらそうなのかもしれない。コイツの言ったとおりに幼稚園からずっと学校は一緒だし、家も近いし。



つまり俺の片思い歴はかれこれ約10年間。うん、俺一途。





だけど幼なじみって言ったって所詮は異性なんだ。ずっと仲良しこよしなんてやれるわけがない。








あれは小学5年生の時だっけ?

俺がまだルキアと呼べて、彼女がまだ一護と呼んでくれた時代。うわ、今じゃ考え付かねー。



5年生は微妙に男女の距離感があるお年頃。そんなクラスメイトが名前で呼び合う俺達を見逃すわけがない。


“黒崎って朽木のこと好きなんじゃねーの?”


そんな言葉なんてしょっちゅうで、俺もお年頃なわけで、


“んなわけねーだろ!誰があんなチビ!”







それをたまたまルキアが聞いていた。昔の俺はおろおろしたっけ?おろおろしても遅いのにな。もちろんクラスメイトの前で“違うんだ、本当は好きなんだ”なんて言えるはずがなかった。






“チビで悪かったな”と睨み付けられて、次の日には“黒崎”になっていた。





それからお互い気まずくなって今の距離感が出来上がった。すべて俺の自業自得だけど。









そんな俺にノートを届けさせる気ですか?水色さん。









「ノートでハァハァする前に行動をした方がいいと思うよ?」







“僕が気付かないとでも思ったの?”とニッコリと笑いノートを手渡す。

ハァハァは余計だ。







確かにこのままの状態で納得なんかしていないし、両想いに憧れる。片想いなんて悲しすぎる。


行動しないと今のままというのは絶対だ。





「水色、俺ちょっと行ってくるわ。」

「うん!いってらっしゃい!」










そうだよな、行動しなかったら今のままなんだ。どんなことがきっかけになるかわからないのに。もしかしたら今回がきっかけになるかもしれないのに。



そうだ、きっかけは自分で作るものなんだ。






俺はノートを持って隣のクラスへ駆け出した。










隣のクラスの扉の前に俺は立ち止まったままだった。勢いで来たもののどう渡せばいいんだ?普通に「落ちてたぜ」とかいうもんなの?いやいやいや平然に言うとか今の俺には絶対無理だ!いやだからと言って赤面してても怪しいし!いつものポーカーフェイスはどうしたよ、俺....。










「あの...何か教室に用あるの?」

「え、あ、ああ。」

「あっそれルキアちゃんのノートだ!ルキアちゃーん?」

「え、ちょ!!」












「桃?呼んだか?」










......目の前に10年間恋い焦がれた少女がいる。本当に久しぶりに正面にいる。後ろで見つめていたより小さかった。顔は昔より大人びていた。あれ?俺ずっと見ていたのにな。正面効果ってすげー。



うん、余計好きになった。










「黒崎?何か私に用か?」

「あ、えーとこれ....」

「ノート?」






いけ!俺!ナチュラルに“落ちてたぜ”と言うんだ!










「落ちてたじぇ?」







.....じぇ?






.....あ


噛んだ。














「うわぁぁぁぁぁ!!」

「ちょ?黒崎!?」








何で噛むかな、俺!
恥ずかしっ、俺!





















「ねぇ、ルキアちゃん。さっきの人どうしたの?いきなり駆け出して行っちゃって。」

「ああ、昔から騒がしい奴だよ。」







その時彼女が楽しげに微笑んでいたことを俺は知らない。


END

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