君の手




街を歩いていたらある雑貨やさんが目に入った。なんもへんてつもないただの雑貨やさんだけど、その雑貨やさんのショーウィンドウにはパーカーが飾られていて、そのパーカーのフードには兎の耳がついていた。
見た瞬間、本当に幸せそう兎を見つめる彼女を思い出した。







朽木さんなら絶対似合っちゃう!



そう思って店に入るとサイズが大きいのしかないと申し訳なさそうに店員さんに言われた。ただでさえ普段から自分に合うサイズがなかなかないと言っていた朽木さんだからそのサイズが大きいパーカーなんてダボダボだろうな。私はダボダボでもかわいいと思うけど、どうせなら彼女にぴったりサイズをプレゼントしたい。うーんどうしよう。





あっ!でもパーカーなら手作りできちゃうかも!



思い立ったら即決行と言わんばかりに私はお気に入りの手芸やさんに足を向けた。











だけど服を作ろうなんて甘かった。服って思ったより難しい造りをしているみたいでややこしい。確かに簡単にできるんなら世界に服屋さんなんて存在しないよね。
しかもパーカーになると難易度がかなり上がる。兎の耳なんて夢のまた夢って感じだった。
私の目の前には服ともいえない布切れが散らばっただけだった。


朽木さん兎の耳パーカー姿見たかったんだけどなと諦めモードでため息をついた時ふとあるTシャツが目に入る。

それは石田君があのソウルソサエティに行った時に作ってくれた服で、可愛いから今のお気に入りの一つになっている。


そういえば石田君はあの時他の人にも服を作ってたっけ。死神さんたちに大人気で石田君も大変そうだった。だけどあのたくさんの服どれもかわいかったな。



.....そうだ!!













「ということで石田君!お願いします!」

「つまり井上さんは兎の耳がついているパーカーを作りたいっていうことだね。」

「うん!石田君なら作り方わかるかなーって思って。」






放課後、石田君と部活に行ってミシンの前で一番にその話題を出す。
石田君は相変わらずあんまり表情は出さないけど作る準備をしてくれた。面倒なふりをしているけど少し目線がイキイキとしている。








「....何で笑っているんだい?」

「うんうん何でも!あっご指導よろしくね!」










まずは型紙を作る作業から入る。そういえば一人で作ろうとした時、そのまま布をジョキジョギ切っちゃったけ?なんていうかアバウトに。あはは、完成しないわけだね。




ふと石田君の手が目に入る。

お裁縫とかお料理が得意なイメージ的に繊細かなと思ったら意外とゴツゴツしていた。

よく考えればそうだよね、弓とか引くのって力いるだろうし、何より石田君は“男の子”だ。



.....あれれ?










「これで型紙は大方完成....井上さん?」

「あっごめんね!ぼーっとして!」

「顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫!健康が井上織姫の一番の特技でっす!」

「そう?ならいいけど。」









石田君が男の子なんてことは当たり前なのに少し照れくさくなってしまったのは何でだろう。


多分パーカー作りは今日だけじゃ終わらない。
それまでにその疑問の答えを見つけられたらいいなと思った。


END












おまけ


「い、井上。本当にもらってもいいのか?」

「うん!着てみて?」




目をキラキラとさせながらいそいそとパーカーを羽織る朽木さん。その姿は本当に可愛らしい。

そして自画自賛しちゃうほどそのパーカーは似合っていた。





「さすが井上だな!」

「ううん私だけじゃできなかったよ!これは私と石田君の愛の結晶なのです!」

「ぶっっっ!!」

「石田、どうした?吹き出して。」

「いや、無意識って怖いと思っただけさ。」


END

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