ハイキュー!! | ナノ




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「…え、」
「なに勝手に入部なんてしてるの。頼んでないでしょ、マネージャーなんて」

…最近はやりの壁ドン。女の子なら誰でも好きな人に一度はされてみたいと願うそれは、決して甘いものなんかじゃなかった。


僕らに足りない愛項目


…今日から私は、バレー部にマネージャーとして入ることになった。
数日前、蛍くんが珍しく話し掛けてくれたと思ったら、らしくない事ばかり言うからすごくびっくりした。呼び方も指定されるし、蛍くんから初めて「好き」って言われるし…。
後日、山口くんから(蛍くんが素直に事情を話してくれるはずも無かった)経緯を聞くと、蛍くんは私が気を遣っていたことが寂しかったらしい。それでも「寂しい」ではなく「もっと我が儘になりなよ」って言ったところが、蛍くんらしいと思う。
そこで私は、バレー部からの誘いもあり、蛍くんの一件もありで、前から入りたかったバレー部に正式に入部した。
蛍くんには秘密にして、驚いてくれるかな、なんてちょっとワクワクしてた。
…なのに。
(…すごく、怒ってた…)
体育館に来てすぐ、バレー部のジャージを着た私を見るなり壁に押し付けて。「ちょっと、どういうこと」なんて抑揚のない声で私を問い詰めた蛍くん。
すぐに先輩方や日向くんたちが止めに入ってくれたけれど、私は思わず体育館を飛び出して来てしまった。
(調子に乗ってたのかな…)
我が儘になりなよ、なんて言われて。
蛍くんが寂しがってた、なんて聞いて。
浮かれてたんだ、私。
…謝らなきゃ、とは思うけど私の足はどうしても体育館に向いてはくれなかった。

   *   *   *

…次の日の朝、教室の入り口には蛍くんが待ち構えていた。
腕を組んで壁に凭れて、私の方をじっと見ている。
…どうしよう、通れない。
オロオロと私が立ち止まっていると、蛍くんは鋭い視線を向けたままこっちへゆっくりと歩いてきた。
怒られる。そう思って目を瞑ったその時。

「光璃ー、何してんのー?」
「!」

蛍くんの向こう、もう一つの教室の入り口から顔を覗かせ私を呼んでいる友達。

「…ごめん月島くんそこ通して、」

早口でそう言って、脇をすり抜ける。
咄嗟に苗字で呼んでしまった、なんて考える余裕もなく、蛍くんの顔を見るなんてとてもできなくて、その時蛍くんがどんな顔をしていたかなんて知る由もなかった。


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