泣き虫な君と約束を | ナノ

向かい合わせの恋情

…うわ〜…美人だなぁ、この人…。
三年生かー…二年の差でこんなに違うものなの?
色っぽいなあ…口元のほくろとか、セクシー。
みんなこっち見てるし。すごいなあ、美人だなぁ…。

「――なんだけど、見学だけでもどうかな?」
「え、あ、ハイッ!」

…え、見学?何の??
美人なお姉さんは、驚いた顔をしたあと嬉しそうにして、お礼を告げて去ってしまった。
え。やばい。全然お姉さんの話聞いてなかった。
何の見学なんだろう。とりあえず、放課後に来てくれるみたいだけど…。

「…っていうことがあったんだけど、どうしよう!?」
「えっ光璃ちゃんも!?」
「えっ」
「私も似たような状況だよ!」

授業も終わり放課後になった。
だんだん不安になってきた私は、同じクラスの仁花ちゃんに事情を話してみる。すると仁花ちゃんが驚いた顔をして私を振り向いた。
しかも、話していくうちに「似たような状況」ではなく「全く同じ状況」であることが発覚。
仲間がいた安心感からか、私たちの話題はあの美人なお姉さんの方へとずれていき…。お姉さんが迎えに来てから慌てて準備をするのだった。



場所は変わり、第二体育館。

「あの!ちょっといいかな!」

お姉さん(清水潔子先輩というらしい)が声を掛けると、動きを止めて一斉にこちらを見た人たち。
…というか、もしかして…いや、もしかしなくてもだけど…ここって、男子バレー部!?蛍くんのいる、あの男子バレー部なの!?ってことは清水先輩って男子バレー部のマネージャー!?

「何何〜何スか〜」
「えっと、新しいマネージャーとして仮入部の…」
「「!!」」
「やっ谷地仁花です!!!」
「篠原、光璃です…」

次々に集まってくる人たち。
おーとか、スゲーとか、口々に言っている中…一人だけ無言で私を見つめてくる蛍くん。…何で無言なんだろう。何か言った方がいいのかな…。いやでも、ちょっと怖い…。

「1年生?」
「うひ!?」
「ひゃっ!?」

ヌッと顔を覗かせた(多分)先輩に、私と仁花ちゃんは同時に声を上げる。

「いっち、1年5組であります!!」

急なことで声も出なかった私と違って、仁花ちゃんは何とか答えた。

「旭ちょっと引っ込め!」
「えぇ!?」

怖い顔の人と、その人を遠ざける人。
じっとこっちを見てくる、坊主の人と小さい人。
オレンジの髪の子と黒髪の目つきの悪い人は多分同じ学年だ。そして蛍くんの言っていた“王様”は黒髪の方だと思う。

「よ、宜しくお願いシャス…!」

ぺこ、と頭を下げた仁花ちゃん。
私も慌てて頭を下げる。

「お願いしますっ」

勢いよく頭を下げれば、下ろしたままのセミロングがさらりと垂れてきた。

「「「シアース!!」」」
「「ひい!?」」

ガバァッと頭を一斉に下げ、地面が震えそうなほどの大きさで返ってきた声に、二人で驚く。
何というか…すごい迫力だなぁ…。
今日は顔見せだけということで、私と仁花ちゃんは体育館を後にする。

「勢いで来ちゃったけど、デカイ人いっぱいだァァ〜…。明日どうしよう!?」

扉を閉めても響いてくる掛け声をバックに、仁花ちゃんと顔を見合わせた。
…とりあえず今日、蛍くんの部活が終わったら絶対に何か言われる。小言とか、文句とか、皮肉とか…。もしかしたら怒られるかも!?…嫌われたりしたらどうしようぅぅぅ…。

「あぅぅぅ………って、あれ?仁花ちゃん!?」

人目を気にするような動きをしながら走り去ってしまった仁花ちゃん。
…忍者ごっことか…??
彼女の脳内で一体何があったんだろう…。




* * * おまけ * * *
その日の夜の二人のライン

月島「ねえ、バレー部入るの?」
光璃「や、あの、全然説明聞いてなくて!」
月島「?じゃあ入らないの?」
光璃「え?」
月島「?」
月島「…もしかして、僕が怒るとか思った?」
光璃「…うん」
月島「そんなことで怒るわけないデショ。光璃のしたいようにしなよ」
光璃「うん。ありがと」
月島「あ、あと。明日から部活来るなら一緒に帰ってあげるから待ってなよ」
光璃「うん…!!」


…怒られなかった。

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