ぬくもりは、ここに


『ねえカルマくん、あんなところで何してたの?』

ケーキ屋までの道を歩きながら、手を繋いでいる俺を、結花は不思議そうに見てくる。
…まずい。浅野が来てたなんて知られる訳にもいかないし、変なこと言っても余計に探られる。

業「た、タコと話してただけ」
『え?でも今日は殺せんせー、本物のトナカイ見に行ってサンタさんと写真撮って来るって言ってたよ?』

げ。あのタコ、余計なこと…。

業「…行く前に、ちょっと話してたんだよ。そんな事より結花、まさかとは思うけど…本当にサンタがいるとか思ってないよね…?」

…話を変えたのは、勿論これ以上追及されるとヤバいってのもあったけど…それ以上に、結花が本気で羨ましがっているのが顔に出てたから。
案の定、結花は俺の問いに首を傾げて「え、いるよね?」と目を瞬いている。

『だって殺せんせー、会いに行ったんだよ?』
業「それは多分、グリーンランドのサンタ達だよ。結花が想像してるような、トナカイにソリを引かせて一晩で世界中の子供たちにプレゼントを届けるような、スーパーなおじいさんはいないの」

…これはまずい。
小学生のうちはまだ、そういうものを信じていてもいいとは思う。けど、俺たちはもう中学三年生…あと三・四ヵ月後には高校生になる。
…逆に今まで、誰一人本当のことを結花に教えていなかったことにびっくりなんだけど。

『えー…でも今朝も、クリスマスツリーの下にプレゼントあったよ?』

不服そうな結花。
…だめだこりゃ。本気で信じ切ってる。

業「…ちなみにプレゼントの中身は?」

ちょっとした好奇心で聞いてみた。
あわよくば、結花の好きなものを知れるかも…なんて思ったり。

『現金一万円』

…聞いた俺が悪かったんだ。
つーか、何その夢のないクリスマスプレゼント!?

業「………。」
『………?』

だめだ、話題を変えよう。
結花に本当のことを理解させるのは、まだ先でもいいだろうし。

『…ねえカルマくん。マフラーとか巻かないの?寒くない?』
業「んー…ネックウォーマーは持ってるけど…マフラーってあんまり使わないから」

…そう答えると、何だか不安そうに、悲しげな表情で俺を見上げてくる結花。
…いや…身長差あるし仕方ないんだけど…上目づかいが半端なく可愛い。何でそんな顔してんのかは気になるけど、それ以上にその不安げな顔に上目使いってのが可愛すぎてヤバい。

『…じゃあ、マフラー嫌い…?』

…心の中で俺が悶えてることなんて全く知らない結花。
その結花の表情が更に翳り、そのうち涙まで滲んでくるんじゃないかと心配になるような顔をするから、俺も流石に何かあるのかと考える。
…とりあえず、マフラーを肯定しとけばいいわけ?

業「嫌いとか、ないけど?ただ、俺が今持ってないってだけ」

ついでに、「マフラーがどうかした?」と聞けば慌てて首を横に振るから、更に怪しい。

『あ、あの!今日カルマくんの家に行っていい?…あ、でも…急に言われても困るよね…』
業「うちは別に構わないけど…?どーせまたうちの親はインド行ってるから、あと二、三日は俺一人だし」
『えっ…』

…自分から言い出したくせに、俺がOKすると目を見開く結花。
顔に信じられないという文字が浮かびそうな程、驚愕の色がにじみ出ている。

業「…?…うちに来るのはいいとして、結花は家族に連絡しなくていいの?」

頭に?を浮かべながらも、そう聞いてみる。
いくら付き合いがあるとはいえ、無断で遅い時間まで居させるのはよくない。(遅い時間まで結花を帰すつもりは無い。)

『…あ、それなら心配ないの!うちの家族も、みんな出掛けてるし…!』

明後日まで、帰って来ないから…と、付け足す結花。

業「じゃあさ。そのまま泊まってく?」

お互い一人なんだし…と言いかけて、ちらりと盗み見た結花の驚いた表情に俺も驚く。

業「…結花?」

泊まるのなんて初めてでもないし、今までの会話にそこまで驚くとこ、無かった筈なんだけど。

『…い、いいの…?そうしたいなって、思ってはいたんだけど…さすがに迷惑かなって…』

もの凄く嬉しそうに笑う結花。
…ほんと、今日は一体どうしたんだろう。
ま、結花が喜ぶなら何でもいいけど。

業「じゃ、ケーキ買ったらとりあえず結花の家寄ろ。着替えとか…制服のままで来るのも窮屈でしょ」
『うんっ』

…可愛い。
もう家に帰したくないくらい、結花が可愛い。
…そうして無事にケーキを買い、私服に着替えた結花と、俺の家を目指す。

『…寒いね…雪、降るかな?』
業「結花、ほっぺ真っ赤だよ。…あと耳も」

ほら、と両手で結花の顔を包むと、だって寒いもん、と白い息を吐きながら答えた。

『カルマくんはあったかいね』

私より薄着なのに、と少し納得がいかないふうに、結花が口を尖らせる。

業「俺はちょっと体温高い方だからね。ほら、早く入って」

家に着くと、急いで鍵を開け中に入った。
ストーブの前に結花を座らせ、とりあえずケーキを冷蔵庫にしまう。
再びストーブの前の結花の所へ行き、まだ赤い頬を両手で包んだ。

『…ねえカルマくん、』
業「なに?」
『…誕生日、おめでとう。それと、メリークリスマス』
業「…あ。」

結花のその言葉と、差し出されたマフラーで、今までの疑問が一気に解決される。
…つーか、自分の誕生日忘れてたし。
そう正直に言うと、結花がふふ、と笑った。

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