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有希子ちゃんたちが苦しんでいるのは、私たちを狙って仕組まれたウイルスの所為。犯人の目的は、殺せんせーの懸賞金。殺せんせーとウイルスの治療薬の取引には、クラスで一番背の低い二人…つまり、渚くんとカエデちゃんだけを向かわせること。期限は一時間。
…烏間先生は、犯人からの電話の内容を、そう説明した。
業「結花!何ともない!?気分悪くなってたりしない!!??」
『う、うん…(汗)』
一週間もすれば死ぬようなウイルスと聞いて、カルマくんが必死の形相で私の肩を掴み、揺さぶってくる。…カルマくんは本気みたいだけど、その焦りっぷりが緊迫した空気を和ませていた。
殺「元気な人は来てください。汚れてもいい恰好でね」
殺せんせーの提案で、動ける人たちでホテルに乗り込むことになった。
私たちが案外あっさりと崖を登ったことで、先生方の心配も杞憂に終わり、律が指パッチんで開けた裏口から中へ侵入する。
…入って早々に、最大の難所。警備のチェックが厳しいロビー。ここを通らないと、犯人が待っている最上階へは行けない。
ビ「何よ。普通に通ればいいじゃない」
どうしようか…と悩んでいる烏間先生の隣で、お姉さまがワイングラスを弄びながらのんびりと言った。
フラフラとロビーに入って行き、ピアノを使った見事な色仕掛けで男の人たちの注意を引く。
『綺麗だったね。流石、お姉さま』
階段に移動してからにっこりすると、カエデちゃんが良かった、と笑った。
カ「結花、さっきからずっと元気なかったから。やっと笑ってよかった」
…そんなつもりは無かったんだけど…きっと、有希子ちゃんが心配で笑えてなかったんだ、私。
『あ、ありがと…』
心配してくれていたカエデちゃんにお礼を言った。