あんさつ。 | ナノ

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『…知られたく、なかったんです。成績を落としていれば、私がE組に来た理由を下手に探られずに済む。…私は、ここへ来た理由を隠すために、今までずっと皆を騙していたんです』
神「騙すだなんて…そんな言い方しなくていいのよ、結花ちゃん。仕方なかったんだから」
『…ありがとう』

私の言葉を否定するように言った有希子ちゃんに、やんわりと微笑む。…ずっと黙っていたカルマくんが、静かに口を開いた。

業「…あいつは何?何で結花にあんなこと言ってたの?理事長が成績優秀者の結花を戻したがるのは分かるけど、何でその息子まで結花を戻そうとするわけ?」

ちょっと不機嫌そうに訊くカルマくんは、やっぱりまだ浅野くんに怒っているのだと思う。

『…うん、あのね…浅野くんとは…私がA組にいた頃に、付き合ってたの…』
殺・ビ・業「「「……………ええぇえぇぇぇえ!!??」」」

…少しの沈黙の後、3人の声が外にまで響いた。…一人だけ驚かずに、3人の叫び声に苦笑している有希子ちゃんは、私がこの間メールで教えたからこのことを知っている。

業「え、ちょ…結花、あんなのと付き合ってたの!?あの腹黒生徒会長と!?」
『(腹黒…)うん、まぁ…。あれでも彼、優しかったの。…あとからその優しさが私に対してだけだったって知ったけど…』

カルマくんの呼び方に苦笑い。まぁ確かに、腹黒いらしいけど…。私は彼の本性を知らなかったし、彼はとても紳士的だったイメージしかないから、ドストレートなカルマくんの呼び方は何だか面白い。…でも、親が“ああいう人”だから、“腹黒生徒会長”のイメージが正しいんだろう。

『…浅野くんがね、私がE組に移動する前日に、言ったの。“君を信じていた僕が馬鹿だった、もう2度と君とは関わらない”って。…見たこともないくらい冷たい目で、今までの事が全部ウソか何かだったんじゃないかと思うくらいに…』

本当に、冷たい目をしていた。
クラスメイトに物を投げつけられるより、彼の視線の方がずっと痛かった。
親に嘆かれるより、彼の言葉の方がずっと悲しかった。
そして…私は自分以外の全ての人を、信じることが出来なくなった。
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