あんさつ。 | ナノ

62

浅「…もう、名前すら呼んでくれないんだね、結花さん」
業「だからさ、何で俺の結花にそんなに馴れ馴れしいのって聞いてんだけど」
浅「…“俺の”…?…結花さん、まさか、」

イライラし始めるカルマくんと、今初めてカルマくんの言葉に反応した浅野くん。二人の間に流れる空気は言うまでもなく険悪で、状況は最悪で。
この状況にオロオロとする有希子ちゃんと、話の中心なのにどこか他人事のように二人を見つめる私。
…あぁ、どうしたらいいんだろう…。

『ちょっと…待って、カルマくん…。後で、ちゃんと…話す、から、今は…浅野くんと、喧嘩しないで…』
業「…分かった」

カルマくんが素直に頷いてくれたのは、蒼白になっているであろう私の顔を見てか、咄嗟に掴んでしまったカルマくんの制服を握る私の手が震えているのを見てか。
どっちにしても、カルマくんが一変して心配そうな顔をするほど、私は怯えていた。

浅「…結花さん、まさか…赤羽業と、付き合ってる…なんて、言わないよね…?」

浅野くんの、カルマくんを何処か馬鹿にするような言い方に腹が立って。

『っ…そう、です。カルマくんは…私の彼氏、です…。あの、浅野くん…教室に、戻りたい…の、ですが…』

…勢いだけはあったものの、やっぱり怖くて。最後の方は頼りなげになってしまった。
震える声を抑えようとしても、震えは酷くなるばかりで。見かねたカルマくんが自分の制服から私の手を離し、そっと握ってくれた。

浅「…君の戻るべき教室は、こっちだろう?」

低く、少し掠れた声でそう言った浅野くんの視線は、私たちの繋がれた手を見つめて、眉間には皺が寄っている。

浅「ずっと、後悔していたんだ。あの時君を信じられなかったこと。自分勝手なのは十分承知している。だけど、僕の所に戻って来て欲しいんだ」

…真剣な、浅野くんの目。私はこの目を知っている。去年まで、私を優しく見つめていた目。…だけど。

『…ごめん、なさい…私っ学秀くんのこと…まだ、怖い、し…信じられ、ない…のっ…』

少しずつ後ずさりし、言い終えると同時に踵を返して走った。

業「結花!!」
神「結花ちゃん!!」

後ろから、心配そうに私を呼ぶ二人の声が聞こえた。
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