30
『あ、お姉さまだ』
教室の中から、窓の外を見ているお姉さまを発見。
何か考え事かな…?イライラした顔してる…。
『…えっ!?』
パッと、お姉さまが窓から消えた。
何か黒い紐みたいなのが垂れ下がってきた気がしたけど…今見えてるのは、バタバタと動くお姉さまの足だけ。
『た、大変!!』
よく分かんないけど、とりあえず急がなくちゃ。
業「結花?どうしt…ちょ、結花!?」
カルマくんは見てなかったみたいで、急に顔色が変わった私に不思議そうにしていたけれど、そのまま私が走り出したから戸惑った声を出しながらもついて来てくれた。
『お姉さ……イリーナ先生!!』
ビ「っ結花…!」
教室に駆け込んでみると、宙づりになって苦しそうにもがきながら私を見たお姉さま。…と、見たことの無い男の人(この人がいたから私は言い直した)が立っていた。
『イリーナ先生!!大丈夫ですか!?どうしてこんな…』
どうしていいか分からなくて、とりあえずお姉さまの足を支えてみる。
身体が少しでも浮けば楽になるかと思って…。…でも予想以上に重かった。
業「結花!落ち着いて!その人なら大丈夫だから!!……あんた、誰?一応この人、俺達の先生なんだけど」
半ばパニックになってる私をお姉さまから引き離し、男の人を睨みつけるカルマくん。
…この男の人、なんか強そう。普通のおじさんだったらカルマくんなら簡単にやっつけられるけど、この人は別次元…な気がする。
『…カルマくん…』
行かないで、とも、どうしよう、とも言いたくて、カルマくんの制服の裾を引っ張る。
どうしよう。お姉さまを早く降ろしてあげたい。でも、私たちじゃどうにもできない…。
烏「何してる。下ろせ。女に仕掛ける技じゃないだろう」
『っ烏間先生!』
業「!」
半分泣きそうになったとき、後ろの方から声がして振り向いた。
今まで私たちを不思議そうな見下すような、何とも言えない目で見ていた男の人は、烏間先生の言葉でようやく、お姉さまをぶら下げている縄を切った。
どさりと、お姉さまが床に落ちる。
『イリーナ先生、大丈夫ですか!?』
ビ「…えぇ…けほっ…ありがとう結花…」
少し咳き込んだあと、私を見て微笑んだお姉さまに安心して、烏間先生を見上げた。
『あの…、』
烏「…騒がしいと思って来てみた。怖い思いをしたな」
もう大丈夫だ、とでも言うように、ぽふん、と頭に置かれた烏間先生の手。
…あ。なんかすごく嫌な感じがする。…カルマくんがいる辺りから。
これが殺気というものなのかな…。
業「…触らないでください」
一応敬語を使ってはいるけど、置かれた手を私の頭から引き離し、そのまま強く握るカルマくんのその態度は、最早先生に向けるものじゃない。…ここは、逆に敬語を使ったことを褒めるべきかもしれない。うん。きっとそうだ。…じゃなくて。
『…カルマくん…』
再びカルマくんの制服の裾を引っ張り、そっとその腕に抱きつく。
…やっぱり、これが一番安心する…。
業「…結花、帰ろっか。…忘れ物は?」
『あ。』
私を見て少し顔を緩めて、烏間先生の腕を離したカルマくんの言葉で、ここに来た目的を思い出した私。
…カルマくんがいなかったら、このまま帰っちゃうところだった…。