あんさつ。 | ナノ

126

理「殺せんせー、私の教育論ではね、あなたがもし地球を滅ぼすなら…それでもいいんですよ」

血走った目。正気とは思えない顔。
次の瞬間、理事長は勢いよく問題集を開いた。
バチンと手榴弾のレバーの音がして、私たちがあっと声を出す暇もなく爆発が起こる。

『…!!』

…瞬間、私は確かに見た。
理事長の、今まで見たこともないような穏やかな笑みを。
…理事長は死ぬつもりでいたのかもしれないけれど…まあ、殺せんせーが目の前で人が死ぬのを黙って見ているわけもなく。
自分が生きていることに気付いた理事長は、殺せんせーの脱皮した皮の中でポカンとしていた。


―――――
―――



『…お待たせ、浅野くん』
浅「父が迷惑をかけたみたいだね。結局、誰一人あのE組には勝てなかったわけだ」

…理事長が敗けたのは(浅野くんも元を辿れば)殺せんせーだけど。
肩を竦めた浅野くんに私は苦笑するしかない。

『…あんまり理事長のこと、嫌わないであげてね、浅野くん』

…今なら少し、分かる気がする。
理事長が浅野くんに完璧を求めたのは、“息子なのに”ではなく“息子だからこそ”だったのだと。

――『…他人の過去を詮索するつもりはありません。けど、一つだけ教えてください、殺せんせー。…理事長は、生徒を愛する教育バカな熱血教師、そう思って、いいんですよね?』
殺「はい」――

…理事長が校舎から去ったあと、私は殺せんせーにそう質問した。殺せんせーは微笑んで頷いただけで他には何も言わなかったし、私もそれ以上は何も聞かなかった。

浅「…父がE組で何をしてきたのかは知らないが…僕にとってはアレが父親で、それが当たり前なんだ。今更、嫌うも何もないよ」
『…そう、だね。………あのね…この間は、ごめんなさい。私、浅野くんに失礼だったよね。浅野くんにとって普通のことを、可哀想、なんて思って泣いたりして…』
浅「いいんだ。僕にとっては普通でも、これが一般的な親子でないことは分かっているから。…それより…そろそろ、本題に入ってもいいかい?」
『…うん』

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