あんさつ。 | ナノ

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二学期の始業式で、竹林くんがスピーチをしていた。…E組からA組に戻る人として、全校生徒の前で。

前「何なんだよ、あいつ!!百億のチャンス捨ててまで脱けるとか信じらんねー!!」

…E組に戻って来て、前原くんが黒板に八つ当たりしながら叫ぶ。
他の人も口々に不満を言った。

神「でもどうして、結花ちゃんじゃなく竹林君に…?」

有希子ちゃんは不思議そうな顔をして首を傾げる。
確かに、理事長は前にあんなことを言っておきながら、私を強制的に戻そうとはしない。

神「結花ちゃんの方が絶対に歓迎されるのに…」

え、そこ?気にするとこはそこなの?

『いやでも、私きっと誘われても行かないし…』
業「…だからだよ」
『!わ、カルマくん!』

いつの間にか後ろにいたカルマくんが、喋りながら私の肩に頭を乗せる。

業「もちろん、結花に戻って来て欲しいのは確かだろうけど…結花が断ることも見越してたんだよ、理事長は。そして、ある程度成績が上で誘いを断れない竹林を選んだ」

…神崎さんなら、その辺の事情は分かるんじゃないの?
カルマくんが最後にそう付け加えると、有希子ちゃんはハッとした顔をして頷いた。
竹林くんの家は病院を経営していて、父も兄弟も家族全員頭が良いと、聞いたことがある。そんな中で彼はきっと、家族からの重圧に必死に耐えていたのだと思う。
だから…私たちに竹林くんを悪く言う資格など無いと思うけれど…。
創立記念の集会の日、再び竹林くんはステージの上に立った。
…今度は何を“させられる”のだろう…。これ以上、クラスの人に悪口を言われるのを見るのは嫌だな…。

竹「――…でも僕は、そんなE組が、メイド喫茶の次くらいに居心地いいです」
「「「!?」」」
『竹林くん…』

誰もが予想していなかった、彼の言葉。
そして…
   バシャァァン
理事長の私物であろうガラスの板を粉々に割った竹林くんは、自ら再びE組に行くという選択をした。
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