榛名元希×高瀬準太



「んー…?」
「あ、はよ、準太」

いい匂いにつられて目が覚めた。
暖かさに後ろ髪を引かれながらものろのろと起き上がる。
なんといっても高校球児なのだ。食欲に勝るものなどない。
匂いの元、リビングへ行けば見慣れた長身がキッチンから顔を出したところだった。

「丁度飯できたから呼びに行こうと思ったんだよ」

そう言って微笑む姿に思わず見とれてしまってから顔を背ける。
エプロンも格好いいだなんて思っていたわけじゃない、断じて。

「顔洗って先座ってろよ、すぐだから」
「あ、おう」

言われるがままに頷いて洗面所に向かった。
ぼーっとしながらも顔を洗っていると榛名の機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてくる。
何がそんなに楽しいんだか訝りながらもリビングに戻れば、テーブルにはすっかり朝食が用意されていた。

「昨日無理させちまったし、大好きなお前のために朝飯作ったんだ。早く食おうぜ!」
「え、あ、うん」

満面の笑みと勢いに押され、頷いていただきますと呟く。
だが少ししてさらりと言われた言葉がやっと脳に届き、段々と顔に熱が集まるのがわかった。
気恥ずかしくて下を向いたまま黙々と食べ進める。
普段は煩く話しかけてくる榛名もなぜだか今日は静かに食べていた。
日曜日の朝の静かな時間が過ぎていく。
黙ったまま食べたからか比較的早く食べ終わり、ふぅと息をつくと榛名がなぁなぁと声をかけてきた。

「飯、どうだった?」

それはもう褒めて褒めて、と言わんばかりの声色で、これが犬だったらパタパタと尻尾を振っているであろうくらいの勢いだ。

正直かなり美味しかった。
だが、こいつ料理もできたのか、と純粋に凄いと思う一方で僅かに屈折した思いが胸をよぎる。
なんで榛名はなんでもできてしまうのだろうかと。
なんで自分はいつも榛名に勝てないのだろうかと。
なんで俺は榛名に何もしてやれないのだろうかと。
追いかけて、施されるだけの付き合いなんて嫌だ。
俺は榛名と対等でいたい。
俺だって何か榛名にしたいし、胸を張って誇れることがほしい。
なのに、神様はどうしてもそれを許してくれないらしい。

複雑な心境のまま榛名の様子をうかがうと、俺が黙ってしまったからかしゅんとうなだれてしまっていた。
先ほどに比べると、耳も尻尾も垂れた状態、だろうか。
あまり見ない態度に焦り、急いで言葉を紡ぐ。

「ちゃんと美味かった。…すごく、美味かったよ」
「だろ!?あーよかった。そりゃあ自信あったけどよ、ちょっと不安になったんだぜ?だって準太黙っちまうんだもん」
「ちょっと寝ぼけてたんだっつの」

褒めればわかりやすく元気を取り戻す。
真っ直ぐ届く言葉に罪悪感を覚えながらも目を反らして言い訳をした。

「な、また作るから食って」
「別にそれはいいけど……食うだけでいいの、俺」

まさか考えていたことをそのまま言うわけにも行かず、かなり遠回しに自分は何もしなくていいのかという不安をぶつける。
すると榛名はきょとんと、まるで俺の言葉が理解できないとでも言うように目を瞬かせた。

「なんかしてくれんの?」
「悪いじゃん、ただ食わせてもらうだけって」
「じゃあさ、俺の飯食って、美味いって笑ってくれよ。まあ別にしなくてもいいけど。俺、準太がいてくれなきゃ生きてけねーからいてくれれば満足だし」
「…そんなの、俺じゃなくても」
「何言ってんだ。準太しかできねーよ」

一緒にいるだけで俺の事幸せにできんの準太だけだ。

照れつつも幸せそうにはにかむ榛名を見て目から鱗が落ちた。
俺は榛名を幸せにできてるのか、ただ一緒に過ごしているだけなのに。
俺は榛名になんにもしてやれてないのに。
いくら榛名の言うことでもやっぱり自分のことは信じきれない。
でも榛名がそう言って笑ってくれるなら、その笑顔を信じてみようと、そう思った。






淳ちゃんに押し付けた小説の修正版。

書きたい形はあるのになんかごちゃごちゃしてしまった(´・ω・`)
遅筆な私にしては1時間という恐るべき速さで書き上げたが内容が薄いorz
しかし珍しく(自分的には)脱線せず上手く着地できた。嬉しい。

2010.12.20



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