丸井ブン太+不二周助/大学1年生



「あ、不二じゃん」
「やあ、丸井もこの講義取ってたんだね」

隣いいかい? と尋ねられて、断る理由もなくオレは頷いた。
中学、高校としのぎを削りあった不二と、何の因果か大学のテニスサークルで出会ったのはついこの間のことだった。
公式の場でオレたちが直接対決することはなかったといえ、元はといえば敵同士。だから顔を突き合わせれば険悪になる……なーんてことはなく、極めて友好的にオレは大学生活初の友人をゲットした。
オレとしては多少は見知った奴ってのと、ひとまず話せる奴ができて一安心。不二の方がオレをどう思ってるかはいまいちわからんけど。

「学部が違うから講義では顔を合わさないかと思ったよ」
「もしかしたら意外と被ってるやつあるかもしんないぜ?」

そしたら何かの時便利だよなって打算的なことを考えているうちに教授が来て、話は一旦打ち切りになった。
まだ始まったばかりの授業で、気の抜きどころもわからず真剣に講義を受ける。やっとチャイムが鳴った時には、思わず詰めていた息をふう、と吐き出した。

「はは、お疲れ様」
「不二は……余裕そうだな」
「そんなことないよ。それよりお昼だけど、もしよかったら一緒にどう?」

さらりと流す不二に疲れの色は見えない。流石天才というべきか、それともポーカーフェイスなのか。それを読み取れるほど付き合いは長くなかったから、考えても無駄だと潔く諦めた。

「いいな、そうと決まったら食堂行こうぜ!」

連れ立って意気揚々と向かった学食は満員で、結局オレたちはコンビニで飯を買って外のベンチで食うことになった。今日がいい天気でよかった、ほんと。

「人すごかったね……」
「ああ……。でも、まあ飯が食えるから良しとしようぜ」

流石にゲンナリとした様子の不二の背中をぽんぽんと叩き、気を取り直して2人で昼食にありつく。
食べながらお互いの時間割を確認してみると、同じものがいくつかあった。これは繋がりを持っておくに越したことはない。あーでも、そういやサークルで話した時にライン交換してなかったな。
早速連絡先を交換しようとスマフォを出すと、不二も心得たようにラインの画面を立ち上げた。



それからオレと不二はサークルは勿論、同じ講義や、それ以外の時間もよく一緒にいるようになった。一緒に、といってもオレたち以外にそれぞれの友達がいることや、サークルの先輩や仲間がいたりすることが多かったが。
そんな中でもなんとなく不二と会話することが多くて、オレはそれが嫌じゃなかった。不二との会話のテンポは今まで周りにいた奴らとは違って、でもそれが新鮮で、面白かったり楽しかったり。相変わらず、 不二の方がオレをどう思ってるかはいまいちわからんけど。

「あ、そうだ、丸井明日のサークルのあと暇?」
「明日?」
大学からの帰り道、突然そう問われて予定を確認する。明日。4月20日。あー……。
「うん、暇だぜぃ。なんか用?」
「美味しいお店見つけたから一緒に夕飯でもどうかなって」
「お! いいな、それ! つっても不二のオススメって、ちょっと心配」
「えーひどいなあ」

そんな事を言ってひとしきりじゃれあって、また明日、と駅で別れた。不二は実家暮らしだけど、オレはここからそう離れていないアパートで一人暮らしだ。
明日、実家にいた時なら確実に夜は家に帰っていただろう。家族の誕生日は毎年家にいる人間で祝うのがうちの決まりだったから。ただオレは家を出てしまったから仕方ない。地元で今まで誕生日を祝ってくれていた友人たちは大学進学でバラバラだし、大学の知り合いでオレの誕生日を知ってる奴はまだいない。だから、暇。
不二に誕生日だって言うつもりはなかった。だってこの歳で誕生日だっていちいち言うの恥ずかしくね? でも、構ってちゃんの自覚があるオレは、誕生日に1人っつーのは実は寂しくて、だから勝手に祝われてる気分になっちゃおっかなって感じ。別に不二に迷惑かけるわけじゃないし、いいよな。
不二との約束で気分がノッたのか、オレは朝から絶好調だった。講義も苦じゃないし、食堂の席も上手いこと確保、サークルの練習だっていつもより身が入ってるのがわかる。いや、勿論普段手ぇ抜いてるわけじゃないけどな!?
そんなこんなでサークルの練習を終えて、着替えをすました不二と一緒に「お先に失礼します!」と先輩に声をかけて部室を出る。いやー、上下関係の緩いサークルで良かった。
不二が連れてきてくれたのは小洒落た洋食屋だった。あんまり大食いってのができそうな店じゃないな。そこら辺の雰囲気はちゃんと弁えてるよ、オレだって。

「気になってたんだけど、1人じゃ入りづらくてさ」
「へえ、お前でもそういうの気にすんだな」
「丸井って僕のことなんだと思ってるんだい?」
一瞬不二の気配が冷えた気がして、オレは乾いた笑いを浮かべて誤魔化した。
「えーと、ほら、何食べる?」
「僕は焼きカレーのセットにしようかな」
「じゃあオレは……うーん……オススメみたいだし、オムライスにしよ」

色々と美味しそうで目移りしたけど、こういうときはオススメのものか、定番のものを食べてみるに限る。不二が向かい側でふふっと笑ったが、それは無視した。どうせ子供っぽいとか思ってんだろ。
注文をして、くだらない話をだらだらとしているうちに料理が運ばれてきた。
不二のは湯気がたってまだ熱々だということがわかる焼きカレー。焦げ目のついたチーズと真ん中の半熟卵が、また食欲をそそる。見ただけでよだれが口の中に出てきた。
オレの前には、定番も定番中の見た目のオムライス。ソースもシンプルにケチャップだけだ。しかし、見るからにふんわりとしている玉子を早く味わいたくて仕方がない。

「じゃあ食べようか」
「いただきます!」

手を合わせて、早速スプーンをオムライスに突き立てる。玉子とケチャップライスを適度によそって口に運ぶ。その瞬間、しっかりと火が通っているにも関わらずふわっふわの玉子と絶妙な甘みのケチャップライスが口の中に広がった。
もう我慢できなくて、次々とオムライスをすくって頬張る。
気づいた時にはすっかり目の前の皿の上は綺麗に片付いていた。

「はー……美味しかった……」

ふう、と水を飲んで一息ついたところで、ハッと目の前の人物のことを思い出した。

「わ、わりぃ! すっかり夢中で食っちゃって……」
「いや、楽しかったからいいよ」
「え? 何が?」

もしかしてオレ変な顔でもしてたか? と首を傾げるが、不二はただ微笑むだけでそれ以上は答えてくれなかった。あんま変な顔してんだったら直してえなあ……。今度鏡でも見てみるか。

「食べ終わったし、そろそろ出るか?」
「あ、ちょっと待って」

オレが立ち上がろうとするのを制止して、不二は店員さんを呼んだ。もしかしてテーブル会計なのかな。
財布財布、とオレが自分の横に置いたバッグを覗きこんでいると、コトリ、とテーブルに何かが置かれた音がした。
なんだ? とテーブルに目を移したオレの視界に飛び込んできたのは、オレの幸せの象徴の食べ物だった。

「なっ、えっ、ケーキ? なんで?」
「僕が頼んでおいたんだ。小さくて悪いんだけど、誕生日おめでとう」
「えっ、あっ、ありがとう?」
「ほら、火、消さないと」

不二の言葉を受けてろうそくに息を吹きかけて火を消してから、まじまじとそれを見る。
手のひらを広げたくらいの小さなホールのショートケーキ。真っ白なクリームに、赤い苺のトッピングで、歳の数……というわけではないけれど数本のろうそくが立っている。小さな頃から大好きな、一番大好きなケーキ。
嬉しくてじわりと涙がにじみそうになるが、それよりも混乱が押し寄せてきて涙は奥に押しやられていった。

「なんで不二がオレの誕生日知って……しかもこのケーキ……」

オレが尋ねると、不二は、うーん、そうだな、と言葉を探すように頬杖をついた。

「丸井はいろんな人から愛されてるってことだよ」
「それって……?」

オレがきょとんと首を傾げると、不二は少し考えてから唇に人差し指を当てて、これは内緒だよ、と話し始めた。

「立海中学のメンバーは高校になってからも毎年それぞれの誕生日を祝ってたんだってね? でも今年はそれができないから、ってさ」
つまり、みんながこのサプライズを不二に頼んでくれた、ということだろうか。それは嬉しい、嬉しいけれど。

「悪いな、貧乏くじっつーか、面倒事に巻き込んで……」

不二は優しいから協力してくれたのだろうが、付き合いの浅いオレのためにこんなサプライズまでしてもらって申し訳ない。オレはつい俯いてしまった。

「多分丸井が考えてることは間違ってると思うな。だってこのサプライズは僕が企画したんだから」

不二の言葉にオレは思わず「えっ!?」と顔を上げた。

「誕生日は確かに教えられたけど、そこからこれをやることを決めたのは僕だよ」

目の前の不二はいつもと変わらずに、いや、いつも以上に楽しそうにニコニコと笑っている。どうしてそんなことを決めたのかさっぱりわからない。お手上げだ。

「嬉しいけどさ、どうしてこんなこと?」
「んー僕が丸井に興味があったからかな。それで大学でたまたま一緒になってこれも何かの縁だと思って話してみたら、すごく楽しかったしもっと仲良くなりたいと思って」

これが理由じゃダメかな? と首を傾げられては、もうこちらとしては降参するしかなかった。

「いやまあダメじゃねー……っていうか、そう言われると照れるだろぃ」

まだ少ない時間しか共にしていないけれど、不二はそうそう自分の感情を正直に出さないということはわかってきていた。でも今の言葉はきっと本心だと思う。だから、余計にこそばゆい。

「オレも不二といると楽しいし……あーっと! まあ今後ともよろしくってことで! ケーキ食おうぜ!」

真面目に返そうとしたけど途中で耐えられなくなって、結局オレは空気をガラリと変えた。不二は特に混ぜっ返すこともなく、はいはい、と器用にケーキを切り分けて皿に盛る。
当たり前のようにオレの方に多く盛られたケーキを見て、つい顔が綻んでしまう。

「じゃあ、改めて。丸井、誕生日おめでとう。これからよろしく頼むよ」
「ありがとな。こっちこそよろしく!」

2人で笑い合ってから、オレは最高に幸せなひと口をかみしめた。



(つーか不二、ここ来たことないって嘘だよな)
(来たことない、とは言ってないよ。入りづらいって言っただけ)
(うわっ、そういうとこ、ホントいい性格してるよお前)




ぶんちゃん誕生日おめでとう!
GENIUSコンビ、もっと書きたいな。

2015.04.20



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