丸井ブン太×財前光/丸井 大学一年生・財前 高校三年生/企画「箱庭」様提出



ずらりと数字が書かれた大きな掲示板を前に一瞬立ちすくみ息をのんだ。
にわかに緊張してくるが平静な素振りを装い、受験票を取り出して自分の番号を探す。

「あー……あるやん」

あまりにもあっさりと見つかったので拍子抜けしてしまう。
しかし合格したんだと自分に言い聞かせるように考えているとじわじわと喜びが沸き上がってきた。
逸る気持ちを抑えながら携帯を手に取る。
ここからが本当の勝負なのだ。



「どーも」
「早かったな」

家に上がるなりちょっと待ってろ、と言われて戸惑っていると無理矢理肩を押され座らされた。
普段は来てもこき使ってくるから、なんというか逆に落ち着かない。
そんな俺の様子は気にすることもなく、丸井さんは飲み物を置いてまたキッチンに行き、小皿を手にして戻ってきた。

「はい、これ」
「なんすか急に」

小皿に乗っていたのははシンプルなチーズケーキだった。
キッチンの箱を見るに丸井さん御用達のケーキ屋のものだろう。
急にってお前の方こそ急に来たじゃん、とこぼしながら丸井さんはケーキを食べ始めた。

「受かったんだろ、大学」
「まあそうっすけど、なんで知ってんすか」
「だって落ちてたらこないっしょ。光プライドたけーもん」
「……日にち、教えてなかったはずなんすけど」

確かに落ちていたら来ないつもりだったが、わかったような顔で言われてむっとする。
しかし、それにしたって疑問が残る。
俺がここに来る連絡したのは合格発表を見た後だからつい30分だし、今日の日付どころか受ける大学だって言っていなかったはずだ。
勿論合格した事は電話では伝えていない。
丸井さんのお気に入りのケーキ屋は少なくともここから1時間強はかかる。
用意しておくことは不可能だ。
悶々と考えていると丸井さんは人の悪い笑みを浮かべた。

「光さ、俺の大学受けたんだろ」
「え……ちょっ、なっ、なんで知っとるんすか!」
「そりゃあ赤也が」
「あんの阿呆……!」
「お前意外と健気だよなあ?ま、知ってたけど」

からかうように言われて赤也への怒りが恥ずかしさへと変わり、顔が熱くなる。
丸井さんの様子を窺うとはにやにやしながら面白そうにこちらを見ていた。
それを見て余計に恥ずかしさと悔しさが増す。
今日は俺が丸井さんと同じ大学に合格した事を言って驚かせようと思っていたのに。
あからさまに不機嫌な空気を出しているにも関わらず、丸井さんは相変わらず楽しそうに俺を眺めていた。

「んでどーすんの?大阪からじゃ通えねーし、こっちで一人暮らし?」

さらりと聞かれて言葉に詰まる。
そう、今日の俺の本題はその話。
この大学に合格したら一緒に住ませてほしいと頼もうと思っていたのだ。
合格の方向で驚かせたそのノリで冗談ぽく切り出したかったが、全然思った通りの流れじゃない。

「あーなんやまあそんな感じっすかね」
「ふーん。それでいいんだ?」
「何が言いたいんすか」
「いや?せっかく同じ大学来るぐらいだからてっきりさー」

丸井さんはやたらと含みをもたせて一人暮らしについてねちねちと突っついてきた。
こっちの言いたかったことをわかっているのかとも思ったが、本人は大して興味が無さそうにテレビに目を向けている。
一見無関心そうな態度だけれど残念に思ってくれているようにも見えた。
先ほどまでうざったいほど絡んできていたのに、そこから一転無言でいられるとそれはそれで気になる。
口火を切ろうかどうか葛藤している間沈黙が続き、俺はとうとう耐えきれなくなって口を開いた。

「丸井さん、一人暮らしってお金とか家事とか大変やないですか」
「んーまあまあな」
「せやから人と一緒に住んだ方が楽やないですか」
「そうかもな」
「しかも大学の近くに住めたら楽やないですか」
「そりゃそうだな」
「ちょうど丸井さんちが当てはまるんすわ」
「だから?」
「……一緒に、住ませてくれないっすか」

気恥ずかしさから目線を落としながらも意を決してそう告げると、丸井さんはなぜか無言のまま立ち上がった。
いいのか悪いのか気になるが返事を催促する事もできず、床を見つめながら声をかけられるのを待つ。
丸井さんはガタガタと引き出しを弄り、なにか鈴の音がするものを取り出したらしい。
どうしたのだろうかと待っていると丸井さんがこちらに戻って来た。

「これ、ご褒美。よく頑張りましたってな」
「は……?」

チャリンと目の前に落とされたのはキーホルダーのついた鍵だった。

「これなんすか」
「合い鍵。勿論俺んちの」

思わず見上げると丸井さんはにやりと悪戯が成功した子供のような顔をしている。
そこで俺は丸井さんの手のひらの上で踊らされていたことにやっと気づいた。

「全部わかってたんやないですか!」
「俺はただお前にその気があったら一緒に住みてーなと思って合い鍵用意しといただけだぜ?」
「俺が一人で阿呆しとったみたいやないですか」
「いやー可愛かったよ?俺に振り回されてる光」
「っ……もうなんでもええですわ」

鍵をくれて嬉しいやら見通されているようでむかつくやら、もう訳が分からない感情が渦巻いてこみ上げてくる。
目が潤んだのを感じてふいっと顔を背けるとあやすように頭を抱き込まれた。

「これからもよろしくな、光」

頭の上から降ってきた優しい言葉に声を出さずに頷いた。




久々の小説。
提出するときに企画の趣旨を確認したらなんか自分が書いてるもの違う気がしてきた…
今回は丸井くんかっこいい路線で行こうと思いましたが世の中なかなかうまくいかないですね。

2012.04.12


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -