立花仙蔵→潮江文次郎



「仙蔵…どうしてこうお前はこんなに俺ばかりを攻撃するんだ!」
「何故って楽しいからに決まっているじゃあないか」
「いつもいつも俺ばかり…!お前はそんなに俺のことが嫌いかっ」

そう言い捨てて潮江は立花の罠により汚れた体を清めに風呂へ向かった。
ぽつねんと庭に取り残された立花は部屋に戻り一人思案する。どうにも潮江が最後に言った言葉が引っかかっていたのだ。
何故罠を仕掛けるかと聞かれれば人がかかっている姿を見るのが楽しいからだ、と答えられる。
何故潮江なのだと聞かれれば一番面白い反応をするからだ、と答えられる。
しかし、あの潮江の、嫌いなのか、という問いにはとっさに答えることができなかった。

いや、嫌いでないことは明白なのだ。自分が嫌うものには極力関わらないようにする種類の人間である立花がこんなにも自ら接触を図っているのである、嫌いであろうはずがない。
寧ろ立花が交友関係を持っている友人の中では一番友好を深めていると言っても過言ではない。

では何故。
思いあたるのは自分の少しばかり高い自尊心の存在だが、それだけとは言い切れないのだ。何か他にそれを拒む掴み所のない感情が確かにあるのである。
そこではた、と気づく。
なんの疑問も抱かず「潮江に仕掛けるのは一番面白い反応をするからだ」と自分自身思っていたがそれは違うのではないか。
よく考えれば潮江と同じかそれ以上に反応が面白い人間は周りに沢山いるのである。しかも最近なれてしまったのか段々と反応が薄くなっている潮江と比べれば尚更だ。

では何故。
もう一度自問し暫し考えると、どこかこの状態に既視感を覚えていることに気づく。こういった行動、感情の動きをどこかで見知っている気がする、と。
ともすれば散り散りになってしまいそうなその記憶を少しずつ、しかし確実に紐解いてゆく。
確か二年ほど前、その時にいたのは食満ではなかったろうか。そうだ、確かにそうだった。食満はくの一の誰かに懸想して、しかし自分の感情を素直に出せずに相手を苛めて仕舞には嫌われてしまった、ということがあったのだ。今の自分の状態はその時とよく似ている。

「つまり…私は文次郎に懸想している、と?」

この私が。
冷静で美しさと忍者としての実力を兼ね備えている非の打ち所のないこの立花仙蔵が、あの色気も愛らしさも上品さもない暑苦しい潮江文次郎に。
この過程に至っても気持ち悪さを感じず、寧ろ納得してしまっているあたり勘違いではないのだろう。
ふむ、まあなんとも面白い事態ではないか。

流石の立花も自分の許容量の外のことには瞬時に対応できないらしく、ふふふ、と不穏な笑い声をあげていた。
これが他人ごとであればどんなにか楽しめたことか。
しかし自分の身に起きてしまったという事実は変えようがないのだから、これからは如何にこの状況を楽しむかということを考えた方がいいだろう。
立花の思考にようやく一つの決着がついた丁度その時、風呂へ行っていた潮江が帰ってきた。
都合のいいものだ、と立花はにやりと口角を釣り上げそして、

「ああ、そういえばな、文次郎」
「なんだ」
「さっきの問いのことだが」
「あ?……ああ、気にすんな、俺も言い過ぎた」
「私はお前が好きだよ」
「だから、嫌われちゃいないのはわかってるって。んな改めて言わなくても、」
「いや、違う」

懸想しているのだよ。

そう言いながら呆気にとられている潮江の唇に爆弾を落としたのだった。




初の落乱小説がまさかの仙文。
なんてこった。
友人に頼まれて書いたんですが小説書くのが久々すぎてダメですね。

2011.11.10


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