立海3年生/クリスマス/企画「ぼくらの場合」様提出



「なー、におー」
「おん」
「最近全然会わねーよな」
「…そうやね」
「うー」

言葉が足りなくても伝わっているらしく、仁王は食事をする手を止めないまま答えた。
丸井が唸って頬をぺたりと机に付けると呆れたようなため息をつかれる。

「諦めんしゃい。みんな受験勉強で忙しいんじゃろ」
「でもほとんどエスカレーターだろ?つーかそんな勉強ばっかしてたら脳味噌溶けるって」
「もし暇があっても予定が合わんかったらどうしようもないんじゃ」

もっともな言い分に口を閉ざすと途端に静かになる。
暫し経ち丸井がバッと顔を上げた。付けていた方頬が赤い。
だがそんなことが気にならないほどの晴れやかな顔に、仁王は面倒そうに眉を寄せる。
丸井がこの顔をして面倒事が起きなかった事はない。少なくとも仁王にとっては。
そして不可解そうな仁王に丸井が声高らかに宣言した。

「よし、クリスマスパーティーしよう!」
「……………は?」

間を置いて響いたのはひどく間抜けな仁王の声だった。



その後、善は急げとばかりに丸井は全員に連絡をとり、放課後にはもう予定を決めてしまっていた。
家に帰る道すがら、仁王はふと感じた疑問を口にする。

「さっきのメール、なんでテニスしたいって送ったん?」

少し考え、何の事か思い当たったのか丸井が頷く。

「あれな。ほら、パーティーとか言うと忙しいのに準備してくれちゃうやつとかいんじゃん。だから」

ああと納得した仁王に丸井がにやりと笑う。

「お前は手伝えよ。暇だろ」

自信満々に断定する丸井に反論できず、肩を落として今後を思いやる。

「まあジャッカル程の働きは望まねーから安心しろって」
「寧ろジャッカルがなんであないに働けんのかわからん…」

背を叩いて告げられた言葉は仁王の慰めにはならなかった。



12月23日。クリスマスの二日前。
丸井は朝早くからテニス部の部室に来ていた。
勿論パーティーのセッティングの為である。

「やっぱり遅刻かよ…」

自分以外誰もいない部室で呟くが、仁王の遅刻は想定の範囲内だと一人気合いを入れ直し仕度に取りかかった。



「すまん、遅れ…」

ガチャリと部室のドアを開けた仁王は目を見張り、言葉を止めた。
そんな様子を不審に思ったのか、どうした?と首を傾げる。

「これ、1人でやったんか」
「は?お前が今来たんだから1人でやったに決まってんだろーが」

良い意味で言った言葉は上手く伝わらなかったのか、丸井は不服そうに口を尖らせる。

「あー、凄いって意味じゃき」

仁王がフォローを入れつつも手伝いを始めれば、機嫌を直したのか生き生きと指示をだす。
料理やテーブルの準備はほとんど終わっているので仕事は専ら飾り付けだった。

指示通りに仁王が働くと装飾品はあるべき所に全て収まったようで、丸井は室内を見渡して満足そうに頷いた。
仁王は疲れたのか早々に椅子に座り、同じように室内を見渡す。

「丸井って飾り付けとかも得意なんじゃのう」
「そう?誰がやってもそんなに変わんなくね?」
「変わるぜよ………そう言えば、これ、費用はどうしたんじゃ」
「俺らの代の余ってた部費使って良いって、先生がさ」

バッチリだと言うようなピースを見て仁王はほっと安堵した。今更集金されたら適わない。
仁王に続いて丸井も手近な椅子に座り伸びをする。
朝からずっと準備しているのだ、相当疲れているのだろう。
欠伸をする姿に仁王は苦笑した。



それから指定した時間を待つだけとなり雑談をしていると不意に扉が開く。

「誰かいるのか…むっ!?」

真田は驚いたのかドアノブに手をかけたまま入口で固まった。
だがすぐに怒ったような声と共に体を押され前に倒れる。
続いて真田を押した幸村と柳が入って来た。
幸村は仁王と同じく目を見張り、柳は薄く笑みを浮かべる。

「メリークリスマス!幸村くんに柳に真田」
「これは…どういうことだい?丸井」
「んー…サプライズ、かな」
「クリスマスパーティーだろう」

丸井はこれまでの経緯を説明しつつも3人に椅子を勧めた。
柳はやはりなと呟いてバックを漁り袋を取り出す。

「差し入れだ」
「ありがと。やっぱ柳はわかってたかー」
「さっすが参謀、じゃの」

仁王が茶々を入れるとまたもやドアが開く。
入って来たのはジャッカルと柳生だ。
一方は慌てて丸井を探し、もう一方は微かに首を傾げた。
説明を求めて目を向けると柳が口を開く。

「丸井が企画したサプライズのクリスマスパーティーだそうだ」
「成る程」
「へえ…って、先に行ってんならそう言え!家まで行ったんだぞ!?」
「あははー悪い悪い」

悪びれず謝る丸井に盛大な溜め息をつく。
歓談している中、全員揃ったかと普段の癖で確認していた真田が声を上げる。

「赤也はどうした。また遅刻か?」
「あいつは今日これねーってさ」
「そうか…。でもたまには3年だけっていうのもいいね」

今にも怒鳴りだしかねない様子にすかさず丸井がそう教えた。
幸村は少し残念そうにするも、気を取り直し笑顔を浮かべる。
そうこうしつつも後から来た2人が席につくと、示し合わせたかのように全員の視線が1人に向けられた。
思い当たる節がない丸井が焦ると近くに座っていた幸村が微笑む。

「乾杯しよう、主催者さん」

そういうことか、と丸井は納得すると飲み物を用意するように促す。
思い思いによそい終わったのを見ると立ち上がる。
気恥ずかしいのかわざとらしい咳払いをしてコップを持ち上げる。

「まあ勉強とかの息抜きになりゃいーなーと思って企画したから、楽しんでくれたら嬉しい。…あーじゃあメリークリスマス!乾杯!」

かんぱーいと間の抜けた復唱と共にコップの鳴らす音が響いた。



パーティーは大きなハプニングもなく終わった。
1人で片付けるつもりだった丸井に、手伝うと言い張る部長を筆頭に片付けを済ませ、久しぶりに全員で帰路につく。
開始は昼前だったが外は既に暗くなっていた。

「寒いのう…」
「そろそろ一年も終わりですから」
「年明けたらすぐ卒業だろ」
「早いものだな」
「そう思うと寂しいね」
「確かに静かにはなるだろうな」
「…あのさ。提案、なんだけど」

俯き呟いて歩みを止める丸井に習い足を止め、振り返る。
訝しく思うものの誰しもが次の言葉を静かに待つ。

「来年も再来年も、それからも…クリスマスパーティーできるかな。こうやってみんなでさ」

顔を上げ、らしくないなと頬を掻く。
だがそんなことはないと次々と声がかけられる。

「今更水臭いな、丸井」
「それこそあなたらしくないですよ」
「切っても切れなさそうな縁だしのう」
「…いいんじゃないか。息抜きも大切だ」
「別にクリスマス以外でも、さ」
「まあできるだろ、俺らなら」
「みんな…」

ありがとう、と言う言葉にこちらこそ、と全員で笑って、


確かな約束を、この胸に。




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2009.12.22
2011.11.03 修正


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