財前光×忍足謙也



「謙也さーん」
「………」

さっきから呼んでいるのに返ってくるのは沈黙のみ。
あー……俺、どないしたらええんやろ。



学校の昼休み。
いつもは謙也さんが呼びに来るのに、今日はなかなか来ないから俺が謙也さんの教室へ行った。
入り口で謙也さんを呼んだけど何故かシカト。
それでムカついて謙也さんの腕をつかんで問答無用で屋上まで連れてきた。
でも結局謙也さんは黙ったまま。

はあ……。

「謙也さん、言うてくれへんと流石の俺もわからんですよ?」
「………」
「なんかあったんとちゃうんですか?」
「………」
「……もうええです。そーやってずっと黙っとったらどうですか?やってられへんから戻りますわ」

俺にしては優しく訊いてたけどだんだんイライラしてきた。
元から俺は気が長い方じゃない。
そして謙也さんに背を向け歩き――だせなかった。
振り返ると謙也さんが俺の制服の裾を掴んでいる。

………………何がしたいねん、この人は。………可愛えけど。

「どないしたんですか。俺戻りたいんスけど?」
「やって、光、最近なんか俺が教室まで行っても女子とおって気付いてくれへんし、昨日の帰りもなんか貰っとったし、き、今日だって昼呼びに行ったら女子に誘われとるし!!光がもう俺んこと嫌になってもうたら、女子が好きになってもうたらどないしよって不安やからそないに女子と仲良うしてほしない!せやかて俺束縛したいわけやないし光には光の付き合いがあるからそないなワガママゆうたら迷惑になるってわかっとるんや、でも、でもっでも……っ。…っく……」

謙也さんは堰を切ったように一気に言いしまいには泣き出してしまったが、やっとこれで理由がわかった。
きっと一人で悩んで泥沼に嵌っていったのだろう。
でもまさかあの超絶鈍感な謙也さんが嫉妬してくれるなんて思わへんかった……。

「ひっく…きら、に…ぅっ…なら、といて……っ」
「何言うとるんですか。嫌いになるわけないッスわ。寧ろ嬉しいぐらいですよ?」
「え……?」

座り込んでいや謙也さんが驚いたようにこちらを見上げてきた。

「だってあの鈍感でノーテンキな謙也さんが焼き餅焼いてくれとるんですから。それだけ俺のこと好きってことですやん」

しゃがんで目線をあわせ微笑めば謙也さんはたちまち顔を赤くする。

「なにゆうとんのや、このナルシスト!ませガキ!…う、も、この、ば、か…っ」
「あーもー泣かんで下さいよ。まぁ泣いとる謙也さんも可愛いッスけど」
「ぅ…光、のドS!」
「せやかてしゃーないですやん。可愛えんですから。
でも…」

そこで俺は言葉を切り不意打ちで謙也さんにキスをする。
あ、驚いとる。

「ころころ表情が変わる謙也さんの方がもっと可愛いッスわ」

口をパクパクさせて焦る謙也さんが文句を言う前に素知らぬ顔でお昼を食べ始める。
まぁ文句ゆーてもきっと照れ隠しやから怖くはあらへんけど。
謙也さんは気まずそうに頭をかき、顔洗ってくると言って立ち上がった。
そしてパタンとドアを閉め校内へ入っていった。
その時に微かに聞こえた謙也さんの呟きは聞こえなかったフリをしてあげよう。
俺に聞こえてしまったとは夢にも思っていないだろうから。

ああ。

「もう可愛すぎて一生手離せそうにあらへんな……」

俺の言葉は誰にも聞かれることなく雲一つない青空へ吸い込まれていった。



(光カッコ良すぎや。俺ばっか振り回されてもうてかなわんわ)

(俺は可愛い謙也さんに相当振り回されとるんやけど……いつになったら気付くんやろ)





前サイトからサルベージ。
財前君が「謙也さん」って呼ぶのに萌えます。

2008.10.15
2011.11.03 修正


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -