忍足謙也×財前光/財前誕



「光ー!!昼食いに行くでー!!」

まだ姿が見えない先輩の声が響いてくる。
最初はその声に恥ずかしさを感じ、周りからからかわれた事もあいまって先輩を怒ったものだったが、今ではその声を待ち望むようになってしまった。
慣れとは恐ろしいものだという事を実感する今日この頃である。
よいしょ、と声には出さず立ち上がるとその時にはもう教室の前に先輩が着ていた。
この教室と先輩の教室はかなり遠い。
それを全速力で走ってきて息も乱れてない先輩は、毎度の事だがやはり凄い。
俺のためにわざわざこっちの教室まで走って来てくれてると思うと嬉しい。
そんなところが好きだと考えていると顔が赤くなりそうになったので、持ち前のポーカーフェイスでそれを抑えた。

廊下にでると「今日は天気ええし、中庭にしよかー」とさっさと歩き始めてしまう。
何か言ってくれるかと期待していた分若干のショックを受けたが、まだ昼はこれからだ、と軽く走って横に並ぶ。

「謙也さん、いっつも何でも早すぎるッスわ」
「しゃーないやん。そういう性分なんやから」

全然俺には手ぇ出さんくせに。
そう思ったが、それを口に出すことはしなかった。



中庭には今日は誰もいなかった。
いつもは数人いるのに珍しい事だ。

「おー誰もいないやん!貸切っちゅーことか」

勢いよく先輩が腰を下ろすと、それにあわせて腕にかかっているビニール袋もガサリと鳴る。
そんな先輩を前にして、何のアクションもないことが悔しくて先輩の横に座らず立ち尽くしていると、ようやく先輩がこちらの様子に気づいたらしく話しかけてきた。

「光?突っ立っとらんで、座って食おうや」

惚けた顔で問いかけてくる先輩を見ていると無性に腹が立った。
だから、つい、口が滑ってしまった。

「謙也さんは、俺んこと、本当に好きなんスか…?」
「そら好きに決まっとるやろ。じゃなきゃいくら俺やって男とは付き合わん」

困惑した表情で、しかしはっきりとした解答。
なかなか聞かない先輩の真剣な声。

「謙也さん、今日、何の日が知っとりますか」
「今日…?」

暫し逡巡し、謙也さんの顔が段々と青くなる。

「ひ、かるの…誕生日…」

焦り始める先輩を尻目に、背を向けて腰を下ろす。

「す、すまん!…忘れとった」

背後で頭を下げる気配がする。
そうやって素直に謝るから憎めない。
つい、もういいか、という気になってしまう。

「プレゼント、ないっスよね?」
「…すまん」
「じゃあ、一つ質問してもえぇですか?」
「おう」

そう言って先輩の方へ振り向く。

「謙也さんは、なんで、俺に…手ぇ、ださないんですか」

俺の質問に先輩は目を見張る。

「手ぇだすんだけが付き合うのに必要な事やないやろ」
「そんなんわかっとります!!」

俺の苛立った声に先輩が驚いたように口をつぐむ。

「俺は謙也さんと手繋いだりしたかったし…色々して欲しかったんです。謙也さんの事好きやからもっと近寄りたいと思うたんです。せやけど、俺、男やから嫌なんかなあとか、あんま女々しいと気持ち悪いやんなあとか、色々、考えて、それで」

言いたいことは沢山あるのに、脳がうまく処理してくれなかったのか言葉が続かない。
恥ずかしくて俯くとまた、ガサリ、と音が鳴った。

「んー、ユウジの真似!」

そう言って肩に腕をかけ後ろからくっついてくる。
ガサガサとビニール袋が先輩の腕で鳴る。
唐突すぎて訳がわからず、ただ試合後の労いとは違う抱きしめ方に顔が赤くなった。

「え、ちょ、謙也さん?」

困惑して問いかけると先輩にしては珍しく、言葉を選ぶように話しだした。

「俺、光はベタベタすんの嫌いやと思っててん。付き合う前も絡んでくと嫌がっとったし」

それはあんたが無神経で心臓が持たないからですよ、と心で憎まれ口を叩く。

「まぁそうやなかったみたいやからこれからは気にせぇへんで行くけどなー」

カラカラと笑う先輩に、悩んでた自分が馬鹿だったと思い返す。

「ぶっちゃけあんま進んだ時の事は考えてへんかったんやけど…」

そこで言葉を区切るとするりと前に周り、顎に手をかけ身長差を利用して上を向かせる。
気づくと唇を重ねられていた。
唐突すぎるキスの衝撃で息が止まっていたらしく、先輩から解放されたときには息は上がっていた。

「光は別嬪さんやからこれからが楽しみやー」

何事もなかったかのようにドカリと座り、今度こそ昼を食べ始める。
それを見て、ふつふつと恥ずかしさが込み上げてきた。

「な、な、なにやってんスか!もし、誰か見とったら…」
「へーきへーき。あ、誕生日おめでとさん、光」

プレゼントどないしよ、と言いながら俺の文句も取り合わずガツガツ昼を食べる姿を見ていたら、呆れて何も言えなくなった。
まあ、しょうがないか…と座って一緒に昼を食べ始める俺は相当この人に絆されているな、と思いながら横を見ると目があった。



焼きそばパンを食べてても格好いい…なんて、恋ってものは相当盲目らしい。




前サイトからサルベージ。

基本的にへたれ攻がそこまで好きじゃないのでへたれじゃない謙也くん目指しました。らしい。

2009.07.20
2011.11.03 修正


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