切原赤也×日吉若/日吉誕/ライ様へのみ持ち帰り可



夜11時。
俺は携帯をノートの横に置いて机に向かった。
そして自分に言い訳をしながら勉強を始める。
別に連絡を待ってる訳じゃない。もうすぐテストだから勉強してるだけだ。
携帯は、時計がわり。
馬鹿馬鹿しいと思う。
けどこうでも考えなければ恥ずかしくてやっていられないのだ。
いつの間にか勉強をする手が止まっていたことに気付き勉強を再開しようとすると、ブブブ…と携帯のバイブが鳴った。
誰からか、なんて見なくてもわかる。
こんな時間に電話をしてくる奴なんてあいつしかいない。
俺は逸る気持ちを悟られないように間を置いてから携帯を取った。

『若ー!!誕生日おめでとー!』

途端に聞こえてきた、予想を上回る元気な声。

「……五月蝿い。時間を考えろ」
『まぁいいじゃん。な、俺一番だろ?』
「いや、二番」
『えー!?マジかよ…』

少しからかってやると明らかに落ち込んだ声。
落胆している様子が目に浮かぶようだ。

「嘘だよ、バーカ。それより、お前がこんな時間まで起きてるなんて珍しいな」
『だろ?若に一番に言うために頑張ったんだよ!』
「俺が起きてなかったかもしれないだろうが」
『んー、なんか若が俺からの電話待ってる気がしたから平気かなって』

さらっと図星を指されて、かぁっと顔が熱くなる。

「な……!」
『悪い悪い、からかってんじゃなくてなんとなくそう思っただけだって。あ、そうだ!誕生日プレゼント何がいい?』

考えたけどなかなか決まんねーんだよーと言う切原。
一瞬、会いたいと言う言葉が口から出かけた。
会って、話して、触れたいと。
でもそんなことは言えない。
神奈川から東京までは俺達からしてみれば遠いし、お互い学校も部活もある。
それに俺の性格からしてそんな事素直に言えるわけがない。
可愛げがないことぐらい、自分でもわかってる。

「…実用的な物がいい」
『そっかー。ん、りょーかいっ』

その後俺達は他愛もない話をして電話を切った。
机の勉強道具を片付けるのもそこそこに眠りにつく。
やはり勉強時間なんて、唯の口実だったのだ。



「日吉ー。ラリーしよー」

声のした方をみると、部室から図体のデカい犬…ではなく、鳳がさながら犬が尻尾を振るようにラケットを振りながら走ってくる。
俺が「ああ」と答えると鳳は驚いた顔をした。

「珍しいね、俺に付き合ってくれるなんて。っていうか今日機嫌いいよねー。誕生日だから…ってわけでも無さそうだけど…。なんか良いことあった?」

あーでもないこーでもないと思案する鳳を置いて、俺はコートの端へ向かった。



「基礎メニューが終わった人から二人組でラリーを始めて!」
「サボった奴はグラウンド10周!」

鳳と二人で声を張り上げて部員に指示を出す。
まだまだ先輩達みたいにはいかなくて三人で一人前のような感じだけど、だんだんと指示を出すのも上手くなっていっている気がする。
そんな事を考えていると、鳳と樺地が寄ってきた。

「日吉、明日の朝の練習メニューなんだけど、……?」

途中で鳳の言葉が止まった。
そして俺の背後に目をやり不思議そうな顔をしている。
どうかしたのかと思っていると、俺の耳に大きな声が飛び込んできた。

「わーかしー!!」

するはずのない声に驚いて振り向くと、フェンスの向こうには元気よく手を振っている恋人の姿。

「あ、かや…?」

なんで、と訊こうとした言葉は、何故か喉の所で止まってしまった。

「ここで部活見てるからー!気にすんなよー!!」

そう言ってその場にどっかと腰を下ろす。
俺は赤也から背を向けて鳳の方を向いた。

「鳳、明日のメニューのことだったよな。それなら」

背を向けたのに後ろに赤也赤也の視線を感じる。
話している途中だったが、堪えられなくて部室へと駆け出した。
そして正レギュラー専用の部屋へ入る。ここなら3年生の先輩が来ない限りは鳳と樺地しか来ない。
俺が乱暴に閉めた扉が静かに開き、静かに閉まった。

「…………急に走り出して、悪かった。赤也がいると思うと集中出来なかったんだ。それに、同様してるところを部員に見られたくなかった」

そう言うと鳳は苦笑した。

「別にいいよ。俺と樺地は切原君とのことも知ってるし。それに日吉の顔、ばっちり赤くなっちゃってたしね」

その言葉に言い返せずにいると、樺地が口を開いた。

「切原さんの所へ…行ってきて下さい。俺達からの、誕生日プレゼント…です」

俺が反論しようとする前にと鳳が樺地に同意した。

「そうだね!今日は元々先輩達が日吉の誕生日会を企画してたから部活は早めに終わる予定だったし……。先輩には明日にずらしてもらうように頼んでみるよ」
「鳳…それ、俺にバラして良かったのか?」

俺の言葉を聞いて、鳳は困った顔をしたあと「聞かなかったことにして」と苦笑した。
先輩達が俺の為に用意してくれていた日をずらしてしまうことに、少し、罪悪感が芽生えた。
でも赤也に会えるのは今しかない。
俺は急いで帰る支度を済ませた。

「ありがとう鳳、樺地」

心の中で先輩達に謝りながら、二人の横をすり抜けて赤也のもとへ向かった。



部活から出て赤也を見ると、急にいなくなった俺を探しているのかコートの方を見ていた。
まだオレには気付いていない。

「赤也!」
「若!…あれ、制服…?」

不思議そうな顔をする赤也に事情を説明する。

「へえ。鳳と樺地に感謝しなくちゃな!」

嬉しそうに笑う顔に思わず見とれてしまった。
その視線に気付いた赤也は何を勘違いしたのか、ごめんと謝ってきた。

「まだ会ってから言ってなかったもんな。…お誕生日おめでとう、若」

そう言うと、俺から数歩離れた所で振り向いて手を差し出してくる。
こんな所で手を繋げるわけがないと怒ろうとすると、赤也は晴れやかに笑った。

「プレゼントは、機動力とお金と若への愛が沢山詰まってる実用的な切原赤也なんだけど…。欲しい?」

充分過ぎるんだよと心の中で呟くと、俺は赤也の手を取った。



もしかしたら、こいつには一生かなわないかもしれない。

そんなこと言ってやらないけど。




前サイトからサルベージ。

2009.01.27
2011.11.03 修正


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -