白石蔵ノ介×日吉若/企画『一歳差』様提出



「えー、予定通り土日は部活休みやから間違うてくるんやないでぇ。以上、解散!」

久しぶりの部活がない土日だ。部員達は皆楽しそうに予定を話ながら帰っている。
かく言う俺も恋人とデート、といいたいところだ、が。

「はぁ……」
「なんやなんや休みやっちゅーんに暗いなぁ!」

バシバシと背中を叩いてくる謙也を睨みつけると、思った以上に視線がきつかったらしくそそくさと銀の背に隠れた。

「なんかあったんか」

心配そうに訪ねる小石川の声すらも無視。
そしてむくれているとそれを見かねたのか財前が口を挟んだ。

「先輩そろそろそのあからさまな態度止めてくれません?うざいっすわ。どーせ彼女にデート断られたかなんかなんですやろ」

図星を指され言葉に詰まる。
断られた時を思い出して余計にダメージを受けていると小春がきゃーっと悲鳴をあげた。

「蔵リンが石になっちゃったわ!!光ちゃん、駄目よ、部長は意外と繊細なんやから」

訂正する気も起きず溜め息をつき歩き始めると、また懲りずに謙也が隣へやってきた。

「明日はパーっと遊ぼうや!な?」
「謙也もたまにはええこと言うんやなぁ…」

感動してそう言うと謙也に叩かれた。

「白石、携帯鳴っとるで」

話していたからだろう、珍しく気がつかなかった。
こんな時に誰だと思いながらも出ないわけにはいかず、乱暴に携帯を開き耳に当てる。

「もしもしぃ、白石やけど」
『あ、白石さん。日吉です。こんにちは。まだ部活中ですか?』

電話に出ると予想外の声。パニックを起こした自分の口からは意味をなさない言葉が漏れる。
そういえばディスプレイを確認していなかった。心の準備が、と今更嘆いても自業自得だ。

「いや、部活は終わっててんけど。急にどないしたん?」
『いえ、その……』

妙に歯切れの悪い様子を不思議に思いながらも、自分の気持ちを落ち着けつつ話し始めるのを待つ。

『明日と明後日部活が休みになったんですけど、遊びに行っても良いですか』

一瞬、思考が白く染まった。

「え、ちょ、その、も一回言うてくれへん!?」
『明日明後日遊べないかな、と。急で無理でしたら、』
「全っ然平気やで!!うっわーめっちゃ嬉しい!!あ、電車の時間とかはまた夜連絡するわ!ほな、またな!」

テンションがおかしくなって一方的にまくしたてて電話を切ってしまった。
だがそのことを気にする間も無いくらいに心臓が脈打っている。

「なあ、謙也」

ん?と振り向いた謙也が携帯を両手で持っている俺に訝し気な視線を送る。

「やっぱ俺明日遊ばれへんわ!」

俺は逸る気持ちを抑えられず、さいならと声をかけて走り出した。
どうやら、心を落ちつけるなんて無駄な努力だったようだ。



「わーかーしーくーん」

お待たせーと扉を開け、適度に冷房の効いた自室へ入ると、先ほど到着したばかりの若くんがローテーブルの横に行儀良く正座していた。
そんな姿に苦笑しつつも向かい側へと座る。

「そないにかしこまらんでええのに。あと、これ。母さんが作った菓子」
「癖、というか習慣なので気にしないでください」

背筋を伸ばしてそう言う若くんの姿は様になっているから、あながち間違いじゃないのだろう。
お菓子を食べながらつらつらと他愛もない話をして、夕飯を食べて、気づいたら夜になっていた。
楽しい時間は早く過ぎるとはよく言ったものだ。
それにしても風呂上がりの若くんが色っぽくて仕方がない。

「どうかしましたか?」
「あーなんでもないで。ちょっと考え事しとっただけや」

どうやら見つめてしまっていたらしい。
適当に待っとってと声をかけて、俺も風呂に向かった。



多少煩悩が払われたが、少し長く入りすぎた。
そんな反省をしながら部屋に戻る。
すると、驚いた事に若くんが俺のベッドに横になっていた。

「若くーん」

名前を呼びながら揺する。

「ん……しらいし、さん」

起きたようだが、寝ぼけ眼だ。

「ベッド用意できとるから隣の部屋行けん?もし無理やったら俺がそっちで寝るからええけど」

んーと唸る様子を見てこれは動かないなと思い俺が移動しようとすると、何かに服が引っかかったらしく動けない。
服の裾を見ると若くんの手がしっかりとそこを握っていた。

「いっしょに、ねま、しょうよ……」

こんなに可愛く強請られて断れる訳がないとこの子はわかっているのだろうか。

「しゃーない子やなぁ、全く」

苦笑して若くんの隣に潜り込む。
すると何かの小動物のようにすりすりと胸元に頭を押し付けてくる。
その甘えるような行動に、本当は甘えたかったのかもしれないな、と普段の彼に思いを馳せた。
微笑ましい光景に口元を緩ませていると、何か若くんが呟いているのに気がつく。
上手く聞き取れなくて聞き返せば寝ぼけているのかちゃんと呂律の回っていない、けれど意志を持った言葉が聞こえてきた。

「これからも…ずっと、いっしょに、いて…ください」

いきなり何を…と若くんの方を見て、その頬を伝う涙にはっとした。
この子も不安に苛まれていたのか、と。
そう、どんなに大人びて見えてもまだ中学二年生なのだ。
互いに中学生。
しかも同性。
不安にならないわけがない。

「うん、うん…せやな」

これから辛いこともあるかもしれない。
泣かせてしまうこともあるかもしれない。
喧嘩をすることだってあるかもしれない。
それでも、それでも。

言葉にできないこの思いが伝わればいいと、その体を強く抱きしめた。



廻る時を2人で生きよ
(1人じゃ無理でも)(きっと2人なら)




前サイトから。

2009.09.19
2011.11.03 修正


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -