仁王雅治×丸井ブン太/仁王誕


ごろごろと仁王のベッドで転がりながらちらりと時計を確認する。
あと15分。
平常を装いながらも少し緊張してくる。
今、仁王はシャワーを浴びに行っていて部屋にいないのだからあまり気を張る必要はないとわかってはいるのだが。

俺はポケットにある冷たい質感を何度も確かめつつその時を待っていた。



「ブン太、起きんしゃい。そのままじゃ風邪引くきに」

その言葉に、もうちょっと…と言いかけたところで声の主が仁王であることに気づきガバッと起き上がった。
寝起きの頭でなぜ仁王がここにいるのかを考える。
そうだ、明日は部活がないから仁王の家に泊まりにきたんだ。
それでベッドでごろごろしてたら寝ちゃって……。

……あ。やばっ、時間!

とっさに時計を見れば針は無情にも12時2分を指していた。
俺は寝過ごしてしまった事にショックを受けながらも、何も12時ぴったりじゃなきゃいけないわけじゃないと自分を納得させて用意しておいたプレゼントを仁王に差し出した。

「はい、これ。誕生日おめでと」
「ん、ありがと」

仁王はそれを受け取り袋からだして眺めている。
通常より早く波打つ鼓動を抑えながら仁王がそれを机に置いたのを見て、俺の中で失望と安堵が交錯した。

「でさ、今日1つだけ俺がなんかしてやるよ。あ、でも俺ができる範囲な!!それとあんま高いのは駄目」

プレゼントをあげたのにこんなことを言ったのには理由があった。
この間家族で出かけた帰りに出店をしている通りを通った。
そこで俺らはぶらぶらと店を見ながら歩いていた。
暫くして1つの商品に目が止まった。
翼をかたどったシルバーのネックレス。裏には何か文字が彫ってある。
少し無骨な感じだけど仁王には似合いそうだ。値段も俺が手を出せるくらい。
そう考えてから、すぐに仁王の顔を思い浮かべてしまった自分に気づき顔が赤くなった。

ただ俺は仁王に友達としてプレゼントを渡すだけだ!…あくまで『友達』、として。

心の中で自分に言い聞かせながら財布をだそうとした、が、なかった。
そこで今日は親がいるから手ぶらで出かけたことを思い出す。
こんなことなら持ってくるんだった、と今更な後悔が押し寄せる。
でもここは家から遠いからもう来ることはないだろうと思うと、諦めなければならないのに買いたいという気持ちが強くなってくる。それにこんなにいいプレゼントは他に見つからないかもしれない。
だがお金がなければ……と堂々巡りをしていると後ろから肩をポン、と叩かれた。

「どうしたんだい?さっきからずっと唸って考え込んでるようだけど」

振り向くと父さんが立っていた。
どうやら、ずっと悩んでいるのを見かねて来てくれたらしい。

「いや、なんでもないよ。待たせてごめん」

持っていたネックレスを戻そうとすると、父さんは目ざとくそれにきづいて俺の手からネックレスを取り上げた。
そして値段を確認して微笑んだ。

「これが欲しいのかい?言ってくれればこれくらいの値段ならかってあげるのに」

そう言うと俺が止める間もなく父さんは会計を済ませ、ネックレスを渡してきた。
まさに早業だ。
もう買ってしまったものを返すのもどうかと思い、家でお金を返そうと心に決めてネックレスを受け取った。

その後、家でお金を返そうとしたが父さんは頑として受け取ってくれかなった。
俺が仁王に誕生日プレゼントとして買ってやりたかったけど、しょうがない。
胸中は複雑だったが自分で持っていても仕方がないので、俺は予定通り仁王に渡すことにしたのだ。

詰まるところこれは俺が買ったものではない、ということだ。
だから俺からプレゼント……ということでさっきの言葉に至ったのだ。
もっとも仁王がそんな事に気付くわけもないが。

「そういえば俺、今好いとる子おるんじゃ。その子と付き合いたいんじゃけぇのう、手伝ってくれんか?」

ズキン、と胸が跳ねた。ドクドクと血管が脈打ち始める。
仁王のことだからそんなに簡単なことは言わないだろうと思ってたけど。
まさか、好きな奴がいた、なんて。そんなの聞いていない。聞きたくもない。
お願いだからそれ以上は話さないでくれ。
そんな俺の心の叫びが届くわけもなく、仁王の声が耳に入ってくる。

「その子はの…可愛えけど天の邪鬼で我が儘でそこがまた可愛くて、色は白めで体がやわっこうくて、」

俺は俺が一度も見たことのない表情をしている仁王を直視できなかった。
そんな穏やかな顔で好きな奴の事なんか話さないでくれ。
こんなつもりじゃなかったのに。
いたい、いたい、いたい、いたい、いたい。

だんだんとたまってきた涙がこぼれ落ちないように俯いて歯を食いしばった。
それでも仁王は俺の異変に気付いていないように言葉を続ける。

「あぁ、その子の名前言っとらんかったね。……丸井ブン太、って言うんよ」

自分の名前を呼ばれたことに驚いて顔をあげると目の前には仁王の顔があって、唇に柔らかいものが触れた。
それと同時に仁王の携帯のアラームが鳴る。
俺が仁王にキスされたと自覚した頃には、もう唇は離れていた。
そして目の前には携帯の液晶画面。

「じゅうに、じ…ぜろ、ふん?……あれ?さっきは12時過ぎてたのになんで…」

混乱する俺を見て仁王は楽しげに笑った。

「俺の部屋の時計ちょっと進めてあるんよ。それよりプレゼントは『丸井ブン太』が欲しいんじゃけど、くれるかの?」

解答をわかりきっている顔できいてくる仁王がにくらしい。
きっと俺が素直に返事をするわけがないのもわかっているのだろう。

「さっきのキスは?」
「ふられた時の為の保険で勝手に貰ったぜよ」

不意打ちでしたくせに悪びれもなく答えるのは仁王らしい。

「絶対ふられないって思ってるくせに」
「まぁの」

当たり前って顔で笑われたらもう何も言えない。
俺は呆れて溜め息をついた。

「あーもーいくらでもくれてやるよ。そんかわしさっきのキスと俺はたけーかんな。後悔すんなよ」

俺が不敵に笑うと仁王は「それは大変」と嬉しそうに苦笑した。



「仁王、好き」
「俺も好きじゃよ。……最高の誕生日プレゼントやね」




前サイトからサルベージ。

このブンちゃんはにおちゃんといるときは携帯の電源をいつも切ってるらしい。
におちゃんとの時間を誰にも邪魔されたくないという乙女心で。
だからブンちゃんが自分の携帯の時計を見るということはないはず(これがいいたかった)

2008.12.09
2011.11.03 修正


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