仁王雅治×丸井ブン太/ブン誕企画提出/高校1年生設定



冬が過ぎて、春が来て、俺たちは高校生になった。

俺は大半の生徒がしたようにエスカレーター式で高校に行くのではなく、公立の高校を受験した。
クラスでもそういう奴は少ないし、テニス部でも公立の高校を受験したのは2人だけ。
俺と、ジャッカル。
何故かってそれはお金の問題。
寧ろ俺もジャッカルも今まで私立に行けてたのが不思議なくらい。
父さんや母さんが頑張ってくれていたお陰なんだけど。

受験までに紆余曲折はあったけど、結局俺とジャッカルは同じ高校を受けて無事合格。
学校までは結構交通費がかかるから、俺は学校近くの安いアパートを借りて春休みから一人暮らしをすることになった。

4月になって学校が始まった。
最初は私立や中学との違いや、新しい友人と先輩、部活に戸惑うばかりだった。
先生からは髪のことで呼び出されるし。
やっと落ち着いてきた、と思う頃にはもう高校生になってから2週間近くが経とうとしていた。

家に帰って携帯を見る。
それが最近の日課。
ディスプレイには日付とメールが来ていることを知らせる文字。
不覚にも少し胸が躍る。
だが差出人を見てみれば、それは赤也からのメールだった。
今でも元テニス部員のメンバーとは連絡を取り合っている。
ただ一人を除いて。

赤也からのメールを読み終え、失望と安堵の入り混じった溜め息を吐く。
そこで無意識に仁王からのメールを待っている自分に気付いた。
自然と自嘲的な笑みが浮かんだ。

今更どんな連絡をくれるというのだ。
今更どんな連絡ができるというのだ。
全部俺の所為。自業自得だというのに。

「ブン太、高校受かったんだってね。おめでとう」
「ありがとう、幸村君」
「ですが違う高校となると少々寂しいですね…」
「少々ってなんだよ!」
「あ、いえ、あの、そういうわけでは…」
「…ぷっはは!冗談だよ!わかってるって」
「でもまさか先輩が公立に行くなんて思わなかったッスよ」

「それ……どういうことじゃ?」
「あ、…にお、う……いつから…っ」
「なんで俺だけ知らんかったん?」
「それ、は、」
「俺、丸井とは結構仲ええと思っとったんじゃけど、そうでもなかったんやね」
「におうっ、ちがっ…まって、におっ……」
「ちょっと仁王!ブン太の話を…っ、くそっ」

幸村君は仁王を追って走って行くのに、俺の足は動かなくて。
必死で伸ばした手すらも、届かなかった。




「…っ」

肌寒さを感じて起き上がる。
どうやら考え事をしている間に疲れで眠ってしまったらしい。
はあ、と息を吐き目を擦る。

また、だ。また、この夢。
仁王と話さなくなってから一体何回この夢を…その時の光景を繰り返し見ただろう。

携帯を探そうとして、まだ右手に持っている事に気付き苦笑した。
そもそも俺と仁王は何かそういった関係をもっていたわけでもなんでもない。
俺が一方的に恋愛感情を抱いていただけで、相手からしてみれば唯の悪友だ。
あの時仁王が怒ったのは、そこそこ仲の良かった俺が仁王にだけ何も言っていなかった事にプライドを傷付けられたからか―――自惚れていいなら、一緒の高校に行けない事にショックを受けてくれたからか。
今となってはもうわからないことだけれど。いや、もとからそんな事を聞ける立場じゃない。
あの日から何百回、何千回ついたかわからない溜め息を吐いて、俺はこの嫌な気分と寝汗を流すために風呂場に向かった。



プルル、と珍しく俺の携帯に電話がかかってきたのは昨日。
俺が寝る直前だった。

「あ、ブン太?俺…幸村だけど」
「あー久しぶり…だよな?声聞くの。なんかあったの?」
「ちょっと丸井の予定を聞きたくて。明日の夕方から夜って空いてる?」
「えっ…と、あぁ空いてる空いてる。けど、なんで?」
「一緒に夕飯食べない?ほら、最近できたバイキング形式のレストランあるじゃない?あそこが跡部の家の会社で割引券もらったんだよ。どう?」
「あのデザートで有名な!?行く行く!!ありがとう幸村君!!」
「ふふっ、ブン太が喜んでくれると嬉しいよ。あ、ついでにジャッカルも誘っておいてくれる?」
「ついでって…あははっりょーかいっ。じゃあもう眠いから寝るな」
「うん。詳しい時間と場所はメールしとくね。お休み」


そんなことを話して、今朝学校でジャッカルを誘って。
今はジャッカルと一緒に店に向かっている。

「それにしても幸村はいつの間に跡部と仲良くなったんだ?」
「んー…仲良くなったんじゃなくて、丁重にお願いしたんじゃね?」
「……確かに」
「だって幸村君のお願い断れるヤツなんてそうそういな…あ!幸村君!」

レストランの前で待つ幸村君を見つけて、ジャッカルとの会話もそこそこに走り寄った。
それからジャッカルが追いつくのを待って店のドアを開ける。
一歩店に入った瞬間、パンッと小気味良い音をたててクラッカーが鳴らされた。
訳も判らず頭に疑問符を浮かべていると幸村君が苦笑して口を開いた。

「ブン太、今日は君の誕生日じゃない」

そう言われてやっと思い当たる。
高校の友達はまだお互い誕生日を気にする間柄でもないし、家族から離れて一人暮らしだったこともあってすっかり忘れていた。
店の中を見渡すと柳に比呂士、赤也、真田がクラッカーを持って立っているだけで他に人はいない。
故意にか偶然にか仁王がいないことを幸村君に感謝した。

「え、他のお客さんは…?」
「やだなー先輩、貸切ッスよ!か、し、き、り!」

驚いて幸村君の方を見るとにっこり微笑まれる。
嬉しくなってガバリと幸村君に抱きついた。

「ふふっ。こんなに喜んでもらえると頑張った甲斐があるよ。さ、ブン太、席について乾杯しようか」

そう促されて、既にある程度の料理が配られているテーブルへ移動した。

「さぁ、主役はこちらです。丸井君」

比呂士が本当に紳士的に椅子を引いて俺を座らせる。

「うん、みんな席に着いたね。じゃあブン太の誕生日を祝って、乾杯!」

幸村君の言葉に合わせてかんぱーい!とみんなでグラスを鳴らす。
それが一通り済んだ所で幸村君が手を叩いて注目を集めた。

「はい、俺の隣の真田から順番にブン太にプレゼントを渡してもらいたいと思う。じゃあ真田よろしく」
「む…わかった」

幸村君からのプレゼントはこの誕生日会なのかな、と思いつつもみんなからのプレゼントを貰う。
全くそんな素振りを見せなかったジャッカルも、ちゃんとプレゼントを用意してくれてて嬉しかった。



その後はひたすら食べて話して、今はみんなが食べ終わり店内にはゆったりとした空気が漂い始めていた。
ふと窓の外を見ると、夕方に集まったにも関わらず外はもう真っ暗だ。
時計を確認すると、時刻は優に8時を越えていた。
幸村君もそろそろと思ったのか、おもむろに声をあげた。

「さて、もうそろそろ遅いしお開きにするよ。中学生もいることだしね」
「んな!?ヒドいッスよ、部長!」
「精市じゃなくて、もうお前が部長だろう」
「あ、…そうでした」

そんなみんなのやり取りを見ながらも、もう終わりかと思うと一抹の淋しさがよぎった。

「さぁでるよ。あ、ブン太はそのまま待っててくれる?俺からの誕生日プレゼントがまだだっただろう?」

みんなと同じように立ち上がろうとするが、すかさず幸村君に止められてしまった。
タオルで目隠ししてね、という言葉に訝しげな顔をした俺に、ちゃんと待ってるんだよとだけ言って幸村君は去っていった。
仕方無く目隠しをしてその場で待機する。
するとそれ程時を置かずに店内に人が入ってくる音がした。
きっと幸村君だろうと俺はひたすら声を掛けられるのを待つ。

足音は俺の横あたりで止まった。
だがそこにいる人物は一向に話し掛けてこない。
痺れを切らして幸村君?と名前を呼ぶが返事は無く、その代わりに目に当てていたタオルを外される。
振り向くと、そこには、

「丸井……」

淡く、力無く、ともすれば泣きそうに微笑んでいる仁王がいた。

「な、んでいんだよ…っ」

驚きや焦りや色々な感情に追い詰められて俺が逃げようとすると、立った勢いで椅子が音を立てて横たわった。
思いの外大きな音に驚いて一瞬身を竦ませると、その隙に腕を引かれ俺が抵抗しにくいように後ろから腕ごと強く抱き締められた。

「お、いっ…放せっ、放せよっ…」
「嫌じゃ」

抵抗すればする程仁王の腕の力は段々と強くなり、仁王に力で適う訳のない俺はとうとう身動きが取れなくなってしまった。

「…なんなんだよ、今更。訳分かんねぇ……」

ポツリとそう呟くと仁王の腕がピクリと反応する。
なんとも理不尽な台詞だが、混乱している頭の中ではそんな事を気にする余裕はなかった。

「…すまん」
「謝るんなら理由を言えよっ!どうして、」
「丸井に聞きたい事と、言いたい事がある。聞いてくれんか?」

静かな声音で話す仁王の言葉を聞いて、俺は諦めていいよと肩の力を抜いた。
すると仁王は明らかにほっと息をつき腕の力を緩める。

「あー…立ったままじゃあれだし、ここ一応店ん中だからさ、座んねぇ?」
「そうじゃね」

倒してしまった椅子を戻しそこに座ると、仁王も俺の隣に座った。
俺が仁王を見ると、仁王はテーブルの上で組んだ手を見ながら静かに話し始めた。

「文句は後でいくらでも聞くきに、一回俺の話を丸井に聞いて欲しい。……なんで他のみんな、赤也でさえ知っちょるのに俺には教えてくれんかったんじゃ?丸井とは仲ええと思っとったし、丸井もそう思っとると思っとった。じゃけん、全部相談して欲しかった、とまでは言わんけど少しぐらいは言っとって欲しかったんじゃ」

仁王は言いたかった事を言い終わったのか此方を向いた。
いつに無く真剣な目で。
我に返って慌てて目をそらし俺も話を始めた。

「えっと、取りあえず公立の高校にしたのは学費が安いからなんだ。仁王に言わなかったのは……決心が揺らぎそうだったから。別に高校は立海でも行けない事は無かったんだ。父さんと母さんは別にいいって言ってくれてたし。でもこれから弟達にどんくらいかかるかわかんねぇし、母さんに無理して働くの止めて欲しかったんだ。公立だったら父さんの収入だけで充分だから。でも仁王に話したら一緒に立海に行きたくなっちゃうと思ったんだ。だから、言えなかった。自分勝手な理由だって、わかってる。振り回して、傷つけて、ごめん」

そう言って頭を下げると仁王はもうええよと首を振った。

「俺もあん時頭に血が上って周り見えんくなっとったし。やけど、俺あんなに怒ったんも苛立ったんも悲しくなったんも初めてじゃったけん、収拾つかんくなってまったんよ。『丸井はなんで俺にだけ話してくれんかったんじゃ?第一俺は何をこんなに焦ってるんじゃ?』って。ずっとテニス部のやつらを避けて1人で堂々巡りしとった。そしたらとうとう幸村に捕まって鉄拳制裁食らわせられてのう」
「幸村君に!?」
「そう」

流石にここでは口を挟まずにいられなかった。
だって幸村君が手を上げたとこなんてこの3年間で一度も見た事が無いし、聞いた事も無い。

「『少しは話しを聞け!相手の気持ちや自分の気持ちがわからないくせに何が詐欺師だ、この鈍感が!!』ってな。それで目が覚めて、自分の気持ち考えてみたんよ。俺がこんなにも感情的になった原因。ずっとわからんかったけど、卒業してやっとわかったんじゃ。丸井がいなくて寂しい。丸井が手の届かない所に行くっていうのが現実的になってやっとわかったんじゃよ。俺は丸井を好いとったんやって。勿論、恋愛対象として」

ふわり、と俺を見て綺麗に微笑んだ仁王とは反対に、俺は今までの話についていけずパニック状態になる。

だって、仁王が、俺を、好きって、恋愛対象としてって、え、どういうこと、ていうか、まさか、もしかして、じゃあ、これって、

「りょう、おも、い……?」
「そうみたいじゃね」

俺が呟いた言葉に笑みを深くする仁王を見て、俺は立ち上がった。
俺が急に立ったことに不思議な顔をしている仁王に近づき、そのまま仁王の顔を自分の胸に押し付けるようにして抱き締める。

「この、ばかっ、あほっ…っ嫌われたかと、思ったじゃんか…っ」

ここに仁王がいるという安心感と、想いが通じ合った嬉しさとで俺の目からは熱い涙が零れてくる。
仁王の存在を確かめるように更にぎゅっと抱き締めると、仁王も背中に手をまわして抱き締め返してくれた。

「…に、お……」
「なん?」
「好きっ…」
「うん。俺も好きじゃよ。ほら丸井、顔見せんしゃい」

やだ、と言う間もなく仁王は俺の腕を外し、涙とか色んなものでぐちゃぐちゃになった俺の顔見上げてくる。

「もう泣かんでええから。な?」

そう言って、あやすように頭を撫でながら涙を拭ってくれる仁王が凄く格好良く見えて恥ずかしくなり、俺は乱暴に自分で涙を拭った。

「っし、じゃあ帰るか!いつまでもここにいるわけにもいかねーし」
「そうじゃな」
「ほら、手」

俺が手を差し出すと意味がわからないのか首を傾げられる。

「手、繋ぐんだよ!早く」

するとやっと合点がいったのか仁王は跪いて仰々しく俺の手を取る。

「仰せのままに、お姫様」

そう言って俺の王子は手の甲に口付けた。



それはまるで物語の誓いのキスのように。

(坊ちゃま、もうよろしいでしょうか)
(ああ、いいぜ。ったく、社員を別室に移しといて正解だったな)




―▽
前サイトからサルベージ。

これは一人暮らしとお姫様と最後のべ様をやりたかっただけな気がする…
しかし恥ずかしいなこいつら。

2009.04.20
2011.11.03 修正


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