10日目は、もう部活も終わって日も暮れた。
朝も昼も部活中も、なんでか千歳に出会えず終わって、ついに避けられるようになっちまったのかもしれねぇ。
しつこく迫られれば逃げたくもなるってか。
気持ちはわからないでもないが、話聞くっつっといてそりゃあねーぜ千歳チャン。
嫌なら嫌って言ってくれよ、そのほうがスッキリすっからさぁ。柄にもなく凹んでんのかオレァ、ため息しか出ねぇよマジで。
部のロッカールームに一人残って、このまま待ってりゃもしかしたら千歳が現れるかもだなんて女々しい考え捨てちまえればいいのに、オレは机に突っ伏して開かねぇ扉をぼんやり見ていた。
目を瞑れば容易に思い浮かぶ笑顔、ふんわり香る千歳のニオイはオレをひどく落ち着かせる。遺伝子レベルで刷り込まれてんじゃねぇのかって思うほど、オレは千歳を欲してんだ。

「...あー、千歳チャンだァ付き合ってェ」

音無くスッと開いた引き戸からひょっこり千歳が顔出して、たった26時間会えなかっただけなのに一週間振りに会ったみてぇな久しさを感じる。
なぁ、逃げんなよ、頼むからさァ。
嫌ならこんなコト言うのは今日で最後にすっからァ...
会えねーほうがよっぽど辛ぇよ。

「いいよ」
「へーへーわかりまし...今なんつった?」

千歳の口から初めて出て来た肯定の言葉は予想外にも程があって、半ば諦めてたオレは驚いて机から身を起こした。
扉の前に立ったまま千歳は笑ってオレを見ている。
幻聴じゃなければ、今いいよっつったよな?

「夢だよ」
「あぁ夢か...だよなァ」

幻聴どころか幻覚かよ。
千歳待ってる間に寝ちまって、夢でも見てたんだオレァ。夢だと気付かせるとか、上げて落とすなよなァ千歳チャン...
夢ン中でくらい夢見させてくれ、無慈悲過ぎっだろ。
ハァァと深いため息ついて、頭を抱え天を仰ぐ。
そんなオレを見て、千歳はクスクス笑いながらオレの隣にやって来た。

夢なら、ちょっとくらい触っても、許されんじゃね?

むくむくと湧いて出た欲望を抑えもせずに、椅子に座ったまま千歳の細い腰を引き寄せ、抱き締める。目の前にある2つの膨らみに顔を埋めて、柔っけぇなとか、いいニオイがすんなとか、夢にしちゃリアルな感覚。
現実だったらアウトだろ、あーでもキモチイ、ふかふかだ。夢でもオレァ、今幸せだヨ。
これ以上はいくら夢とはいえヤベェから、名残惜しいがそれから離れて千歳を見上げる。ほんのりピンクに染まった頬と、長ぇまつげ、それにふっくらした唇。
かぁいい、好きだ、千歳チャン。
無意識に口からンなクセー台詞が漏れ出して、夢だしな、実際には言えねーよ。
右手を千歳の後頭部に回しサラサラの髪を指に絡ませ、その唇をかっ喰らおうと引き寄せる。
夢だしな、ウン、夢なんだから。
喰わせてくれよ、オレァ待ち過ぎて腹ペコなんだ。

「千歳...ってイッテェ!なっ!?」

それに触れる数センチ手前、頬に強烈な痛みが走る。
細めてた目を開いて視線をずらせば、千歳の手が
オレの頬を思いっきりつねってる。
いだっ、まじでイッテェ!手加減しろよ千歳チャン!

「これでも夢だと思う?」

ハァ?何言って...
顔をさらに赤くして、困ったような顔でオレを見る千歳はつねった手を緩めない。
痛い、痛いヨ千歳チャン、手ぇ緩めてくれ。
ン?夢なのに痛いっておかしくね?え?...ハァ?
ウソだろ、まさかこれ現実ゥ!?

「マジか...」

夢だと思って調子に乗った結果を今死ぬほど後悔している。どこまで夢で、どっから現実!?
ひとまず千歳に触れてた手は離し、
両手を上げて降参のポーズ。
近過ぎる顔も離せば、千歳は視線も逸らさずオレを見ていた。そんな瞳でオレを見るのは勘弁してくれ、謝るからさァ...

「...ふ、あはは!はぁ、おっかし...」
「ハ、」

黙ってじっとりオレを見てたと思ったら、ただ堪えてただけみてぇで、千歳は突然笑い出す。
ンだこれ、訳がわかんねぇ。

「夢じゃないよ、最初から現実」

笑い続ける千歳、オレはどうやら騙されてたらしい。
じゃああのやわっけーおっぱふも、
現実だったってコトォ!?
数分前の己の愚行に冷や汗が出る。
あ、なんかオレ変なことも言ったよな、どうすんのコレェ!ン、待てよ最初から現実?ってことは、いいよってのも現実なワケ?
恐る恐る目の前のでっかい瞳を見ると、オレの考えはお見通しだ、みてぇな顔して千歳はオレに微笑み言った。

「現実を、もっと堪能、してみない?」



一日一荒北 10
last day / 2017.06.20

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