「トリックオアトリート!」

メインステージの裏、準備に勤しむ私の前に現れたのは黒い羽根を背中に生やした少年だった。

「あれ真波くんどうしたのその格好、可愛い」
「部の出し物で、オレの担当は悪魔らしいです」
「いいね、似合ってる」

青みがかった髪の毛を外に跳ねさせて、無邪気な顔した真波くんは、黒の二本角と先を三角に尖らせた尻尾をぶら下げて、満面の笑みで私に両手を差し出す。

「トリックオアトリートですよ、沙希さん」
「あ、お菓子か、お菓子あったかなぁ」

同じ呪文を二回繰り返されて、あぁそういえばハロウィンが近かったっけと思い出した。だから彼の部の出し物も仮装なのかな、なんて考えながら、ポケットの中に手を入れてみる。
確かカバンの中にチョコレートだとかがあったはずだけど、あいにく今それは教室に置きっ放しで、身一つの私がもしお菓子を持っているとしたらここにしかない。
スカートの右ポケット、には無い。
じゃあ左側?にもやっぱり、無い。

「オレとしてはいたずらのほうがいいんだけど」

お菓子を待つ彼が何か言ったような気もしたけど、ステージ上でマイクテストをするクラスメイトの声にかき消されて聞こえなかった。
そうだ、そういえは胸ポケットに!左胸の小さなポケットに指を突っ込むと、カサリと何かの感触が。

「真波くん今何か言った?
 あ、あったー!はい飴ちゃん!」

中から出て来たのは一粒のキャンディで、これはさっき友達に貰ったものだ。彼女には悪いけどこれは真波くんにあげちゃおう、ハロウィンならしょうがない。
笑顔でそれを差し出して彼を見ると、真波くんは少し不服そうな顔をしていた。

「残念です...」
「え?なに?なんで?飴じゃダメだった?」
「んー、そうですね〜」
「ごめんね、これしかないの」

そう言うと真波くんは私の手からキャンディを受け取ると、包み紙を開けてパクリと口に放り込む。
一体なにがダメなのか私には検討もつかないけど、食べたってことは一応OKってことなのかな?よくわからないままでいる私に真波くんはにっこり微笑んで、

「ふふ、じゃあいたずらで」

え、いや今飴をあげたよね?で、食べたよね?
そう言おうと思って開いた口は、真波くんに塞がれた。
あまりに急なことで固まる私にお構い無しに、彼は口の隙間から舌と一緒に何かねじ込んでくる。
逃げようにもいつの間にか真波くんの腕が私の身体に巻きついていて、力強いそれはびくともしない。2つ年下とはいえ真波くんも男なんだと思い知らされた、彼に触れた部分全部が熱い。

「ははっ!顔真っ赤、沙希さん可愛い」

私の口の中に飴を残して離れてった真波くんは満足そうに極上の笑みを浮かべてた。
じゃ、オレもう行きますね!と背を向けて、羽根と尻尾を揺らしながら真波くんは去って行く。やるだけやってあとは放置だなんて、まさに悪魔の所業じゃないか。
口の中でシュワシュワ弾けるソーダ味のキャンディが消えて無くなるまで、私はそこから動けなかった。



ハコフェス!
Another HakoFes side.真波 / 2017.07.03

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