「...オイこれ、アイツらがステージで宣伝すれば
 よかったんじゃナァイ?」

中庭が一望できる新校舎3階の空き教室にてーーー
沸き立つ地上を見下ろし狼男は怪訝そうに吐き捨てる。
階下では学園祭一番の目玉イベントであるミスター箱学ミス箱学コンテストがちょうど開催されていて、彼と同じ自転車競技部に所属する男が二人、そのステージ上に立っていた。
別に興味なんてないとはいえ、高校生活最後の学園祭を伝統の宣伝とかいう意味のわからないもので潰されて、しかも変な仮装にカッコ悪い看板つきだ、彼の機嫌が悪くなるのも頷ける。
賑わうそれに来場者を奪われ浮かれた校内を行き交う人が減った今、もう充分だろと吠える彼に手を引かれ、赤ずきんはここに連れ込まれたのだった。

「んー、そのほうが効果的だったかもしれないねぇ」
「ンだよクソッ」
「まぁそれは今年たまたま東堂くんと新開くんが
 箱コンにエントリーされたってだけの話だし」
「ケッ」

空になったベプシの缶ボトルを机に叩きつけるように置くと、彼は狼の被り物を引っぺがし、ぺたんこになった髪をかきあげる。
被り物を外したとはいえ彼の顔にはまだ3本ひげのペイントが残っていて、眉間に深く皺を寄せたところでいつものような威圧感はない。
わあっと響いた歓声に視線をやると、フランケンシュタインに仮装した見慣れた男がステージ中央に招かれているところで、あんなのが1位とかわっけわかんねェなと呟く彼の隣に赤ずきんは寄り添い言った。

「私は結果的にデート出来て嬉しかったけどなぁ
 靖友は?嫌だった?」

満面の笑みを浮かべて彼を見上げる赤ずきんはきらきら輝き見ているこちらが恥ずかしくなるほどで、狼男から人間に戻った彼は、渡された手鏡を受け取って懸命に顔のペイントをぬぐい取ろうとしている。心なしか彼の頬は赤い。

「...別に嫌じゃねーヨ」
「なら良かった」

ぶっきらぼうにそう言う彼の頬に残る黒のラインを完全に拭いきり、赤ずきんはまた微笑む。薄汚れたウェットティッシュはくしゃくしゃに丸められゴミ箱までフライアウェイ、音なくすっぽりそれに収まると、外からワァァッと一際大きな歓声が上がった。
たまたまタイミングが合ったのだろうと予想はつくが、あまりにタイムリーな出来事に、二人は顔を見合わせ声を上げて笑ってしまった。
肩を並べて歓声の根元を見下ろせば、そこではミス箱学がミスター箱学に告白するというドラマティックな展開になっていて、好きですと叫ぶ赤面のミスはいっそう美しく見える。

「靖友、好きだよ」
「ア?それさっきも聞いたァ」
「靖友は?」

窓の外を見つめたまま、赤ずきんはミスと同じ台詞を繰り返す。左半身に触れる彼の腕をくいと引いてみるが、返事はない。
代わりに呆れたようにため息を吐き、赤ずきんの顎に手を添え、それを自身のほうに向けさせると彼はそのまま彼女にキスをした。

「んっ...またそうやって誤魔化す」
「ッセ、もう喋んな」

騒がしい中庭は無視して窓にぶら下がるカーテンに手を伸ばす。シャッと音を立てたそれは外部からの全てを遮断した。閉ざされた空間で視界に映るは目の前の彼だけになり、覗く八重歯は牙のようで獲物を狙う瞳が鈍く光る。
眼光に囚われ捕食の合図を受け入れた赤ずきんは、
ゆっくりとその瞳を閉じたーーー



ハコフェス!
After HakoCon side.荒北 / 2017.06.13

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