「こんなところで、何してるんですか」

メインステージで行われていたコンテストが終わってどれくらい経っただろうか。
祭りの終焉を間近に控え、校内では後片付けを始める人もちらほら出てきて、かく言う私も例外でなく、茶屋娘を卒業して本来の学生へと変身していた。
売り子として散々働いたのだから、片付けは他のクラスメイトに丸投げして残り少ない学園祭を楽しもう。意気揚々と校内を散策するも束の間、新校舎から旧校舎へと続く渡り廊下を歩いていると、見覚えある黒のマントが目に付いた。
さっき会ったときには自信満々得意満面な表情を浮かべていたはずのドラキュラは、隠れるようにして旧校舎を背に地面に座ってる。
声をかけるべきか、かけないべきか。
なんとなく彼が意気消沈している理由はわかる、不本意ながら私絡みの部分もあるかもしれない。だとしたら無視するわけにはいかないし、あまり気は向かないけどしょうがない。
渋々静かに近寄り声をかけると、東堂先輩はその整った顔で私を見上げた。

「あぁ橘か...すまんな、負けちまったよ」

彼の言うそれはきっとミスター箱学のことで、私はステージを見れなかったけど聞いたところによれば僅差で同じ自転車競技部の新開先輩に負けたようだ。
ベクトルは違うが新開先輩も中々のイケメンだから、流石の一位も頷ける。というかどっちかというと見た目は東堂先輩より新開先輩のほうが私の好みだったりする、そんなことは今言えないけれど。

「別に私は負けてくれてよかったと思います」
「...相変わらず手厳しいな橘は」

勝ったらオレのものに、なんて言われて誰が応援できようか。厳しいとか厳しくないとかそういう問題じゃない、そんな他力本願な告白、認めません。
文句一つ言いたいとこだけど目の前の先輩は柄にもなく言葉少なに陰鬱として、また視線を下に戻してしまう。

「らしくないですよ、東堂先輩」

思わずらしくないなんて言ってしまって、続く言葉は見つからない。なのに黒みがかった群青の瞳は何かを期待しているように瞬きもせず、また私を見上げるのだ。

「先輩はいつも自信に満ち溢れてて...
 こんなことで落ち込むような人じゃないはずです
 負けたとしても私を自分の物にするって断言するのが
 先輩じゃないんですか?」

私がそう言うと、先輩の瞳に光が戻った。
なんで激励しちゃってるんだろう私。墓穴を掘るっていうのはまさにこのこと。
だって見てられなかったんだ、落ち込んでる先輩の姿なんて。面倒だし煩いし、正直うっとおしい時もあるけれど、私はその強い眼差しが好きなんだ。

「...私を諦めないで、東堂先輩」

つい口から出てしまった本音、目を丸くする先輩が見えてカッと顔が熱くなる。なんてこと言っちゃったんだろ私、こんなの好きだって言ってるようなもんじゃない...

「橘、それは、」
「以上です!
 私、クラスの片付けがあるので失礼します!」
「待て橘!...六花!」

そんなものはないけれど、今はこの場から早く逃げてしまいたい。窮余の一策、嘘も方便、言うだけ言って踵を返す。
だけどそれは立ち上がった東堂先輩に腕を掴まれ阻まれて、背を向けた私をぎゅっと抱き締め彼は言った。

「オレの物になってくれ、六花」

耳元で囁かれた言葉はいつもと違う真剣そうな声色で、肋骨あたりに巻き付いた腕にいっそう力がこもる。私の後ろ一面に接する熱がじんわり全身に回っていって、静まれ心臓、どくどくと煩いよ。

「...最初からそう言えばよかったんです」
「そうだな、すまない」

平気なフリして澄ました声で、真っ赤になってる顔が先輩に見えなくて良かった。なんていう安堵は回り込んできた先輩に一瞬にして吹き飛ばされて、そんな私を見た先輩は更に追い討ちをかけてくる。

「好きだ六花」

真っ直ぐ見据える真摯な瞳は私の好きなそれで、顔の熱は引きそうにもない。
見ていたいけど恥ずかしくて見てらんなくて、視線を逸らす私の紅に染まった頬に手を触れひと撫ですると、東堂先輩は柔らかい笑みを湛えて繰り返した、

「好きだ六花、愛してる」
「...先輩、それはちょっと重いです」
「むっ、そう思うのだからしょうがないだろう?
 好きだ六花、世界一、いや宇宙一だな」

ぺらぺらとよくもまぁそんな台詞が吐けるものだと感心するのと同時に、いつもの東堂先輩に戻ってることに気付く。
ちょっとウザめなこの感じ、なんだかんだ言ってこういうところも好きなのかもしれないね。

「そんな可愛い顔、他の男に見せてはならんよ?
 六花はもうオレのものなのだからな」



ハコフェス!
After HakoCon side.東堂 / 2017.06.12

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