「新開くんっ...!?」

ステージから引きずり降ろされて、どれくらい走っただろう。人で溢れた中庭を出て騒がしい廊下を駆け抜けて、真っ二つに割ったように人々は避けていく。まるてモーゼの魔法みたいだ、なんてぼんやり思った。
それでも彼の歩みは止まらない。
目立つ赤いマントを揺らしてひたすら前へ進む彼の後ろ姿を見つめて息が上がる。いつの間にか涙は止まって、掴まれた腕が熱い。

「新開くん、もうっ...苦しいよ、新っ...」

人気のない旧校舎、長い廊下の突き当たり、化学室の扉を開けると彼の足はやっと動きを止めた。
締め切られた薄暗い部屋の中の空気は少しひんやりとして、篭った薬品の香りが鼻に付く。でもその香りは振り向きざま扉を閉めた新開くんで上書きされた、彼の両腕が再び私を力強く抱き締める。

「すまねぇ、人前であんなことして」
「あ、あぁ、うん、大丈夫、大丈夫なんだけど」
「けど?」
「今もその...えっと」

息が上がってるのは私だけじゃなくて、額に上下に揺れる新開くんの肩が触れる。がっしりしてるなって思って見てた新開くんの身体は実際に触れてみると想像以上で、男の人ってこんなにも硬いものなんだと知った。
走ったからなのか、この現状のせいのか、ドクドクと脈打つ心臓が痛い。

「嫌かい?」

そう言った新開くんの腕から解放されて、思わず見上げた先にはハの字に下がる眉毛、じっと私を見つめるタレ目が胸に突き刺さる。
もうこれ以上ドキドキさせないで、心臓が壊れそう...

「違っ!急展開過ぎてついていけないっていうか...
 は、恥ずかしい...」
「あんな大勢の前で告白しといてか?」
「んん、ぐぅの音も出ません...」

我ながら大胆なことをしちゃったな。
改めて思い出すと顔から火が出そうだけど、今この瞬間に繋がるのならどんな羞恥にも耐えられる。新開くんが手に入るなら、私はなんだってするんだよ?

「ははっ!佐久間さん、
 今更だけど、名前で呼んでもいいかい?」
「えっ、あ、うん...」
「 凛 」
「...新開くん」
「オレも名前で呼んでくれよ、凛」

一番好きな人が、一番いい笑顔で、私の名前を呼ぶ。
離さないで欲しかったの気づいてたのかな、またぎゅっと抱き締めてくれる彼が愛しくてたまらない。
ずっとずっと好きだったんだよ。
今も、そしてこれからも。

「隼人、大好き」



ハコフェス!
After HakoCon side.新開 / 2017.05.16

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