周りを校舎で囲まれた中庭には、沢山の生徒や来場者が集まっていた。
中庭を見渡せる新校舎の教室の窓際にもちらほら人影が見られ、彼らはみな次の演目となる箱根学園学園祭ハコフェスの目玉イベント『ミス箱学ミスター箱学コンテスト』を今か今かと待ち侘びている。
ジャンッと響く歯切れの良い和音を最後に吹奏楽部の演目が終わり、盛大な拍手が送られる中、演奏していた生徒達は各々の楽器と椅子を持ってステージを後にする。
誰もいなくなったステージの上、ついに始まるのかとざわめき立つ観客の前に一人の男が現れた。

『さぁ長らくお待たせ致しました!ハコフェス目玉! 
 ミス箱学、ミスター箱学コンテスト、
 略して箱コン!結果発表だぁー!』

真っ赤なシルクハットにハート型のサングラスをかけた司会の男が声を上げると、舞台袖から8人の男女が順番にステージに現れ、観客たちのボルテージが一気に上がった。
ハコフェス開催前に行われた事前投票で選ばれた8人には容姿端麗、眉目秀麗という言葉がよく似合う。特に制服を着用していない仮装二人組は一際目を引いた。

『最終選考に選ばれたこちらの男女各4名の中から
 たった2人!たった2人が選ばれる!
 去年のミス・ミスターか!それとも世代交代か!?
 まずはミス箱学から!今年のミス箱学は...?』

どよめく会場に、大音量のドラムロールが鳴り響く。最後にドンッとドラムが叩かれた瞬間、ステージ両端からスタッフが走り出てきて選ばれた一人にティアラとベルベットの赤マントを羽織らせた。

『去年のミス箱学ぅ!佐久間 凛!!
 さぁ佐久間さん、こちらへ!』

名前が呼ばれるのと同時か、いやそれより少し早いくらいか、観客たちはワァッと声を上げ祝福の声が飛び交った。
促され並んだ列から歩を進めると、声援を受けた彼女はうっすら微笑を浮かべる。余裕があるようにも見えるその表情は実際には無関心からくるものなのだが、観客たち、特に男子生徒たちはそんなことを知る由もなく彼女の美貌を褒め称えていた。

『佐久間さん、今のお気持ちは?』
「ありがとうございます」
『んー、COOL!
 もっとコメントを聞きたいがその前に!
 ミスター箱学の発表だぁ!!
 今年のミスター箱学はーーー』

再びドラムロールが鳴り始めると、先ほどとは一変して会場は静まり返る。固唾を飲む女子生徒たちは祈るようにステージを見つめ、ドンッとドラムが叩かれた。

『去年のミスター箱学、東堂尽八に僅差で勝利!
 新開隼人だぁぁ!!』

一層の歓声と一部女子の悲壮な叫びが響くなか呆然と立ち尽くす昨年のミスター箱学ヴァンパイア東堂を尻目に、スタッフはフランケンシュタインに扮した新ミスター箱学に王冠とマントを授ける。
大きなボルトが刺さる頭に乗った王冠がどうもミスマッチで、会場から少し笑い声が上がった。

『新開くん、今のお気持ちは!?』
「あー...悪いな尽八」
「悔しいが構わんよ新開!おめでとう!」
「サンキュー」

隣り合わせの二人がお互いの拳を合わせグータッチを交わすと、観客たちは盛大な拍手を彼らに送った。
牙を見せて笑みを作るヴァンパイアは列から前に出るようにと戦友の背中を押すと、ステージ上の中央に今年度の王者が肩を並べる形になる。その横に奇抜な格好の司会者もいるわけだが、観客の目にそれは映らない。

『自転車競技部の麗しい友情!素晴らしい!
 ...ん?はい?ミス箱学からお言葉が貰えるそうです!
 マイク?どうぞどうぞ!』

赤のマントを風で揺らし、ミス箱学は司会に耳打ちをした。小さく御礼の言葉を述べるとスタッフから差し出されたマイクを受け取り、同じマントを羽織り横に並ぶフランケンシュタインを見据えて深呼吸、そしてこう言った。

「新開くん。ミスになったし、いい機会だから
 もう一回言わせて下さい
 好きです、付き合って下さい!」

硬くマイクを握り締め、彼女は7度目となる台詞を唱える。思いがけない展開に、今日一番のどよめきが会場を包み込んだ。

『うぉぉぉぉ!?なんと!!
 ミスからミスターへ愛の告白ぅ!?
 ミスター!お返事は!?』

歓声、悲鳴、応援、冷やかし、様々な感情が渦巻く中で司会の男が直立不動のフランケンシュタインにマイクを向けると静まり返る会場、マイクを手にした彼がゆっくりと口を開いた。

「ありがとう佐久間さん
 でもオレ、今誰とも付き合う気...
 なかった、なかったはずなんだよ
 だけどさ、さっきあんなの聞いちまって...
 断るなんて、男じゃねぇよな
 凛、オレを幸せにしてくれるかい?」

ワァァッと興奮に湧き立つ会場。
信じられないと顔を手で覆う彼女の瞳から涙が溢れた。人前であることを忘れたフランケンシュタインは、その手を引き寄せ抱きしめる。
こんな言い方すると格好悪かったな、と耳元で呟いて、彼はもう一度マイクに向かって言ったのだ。

「オレも、凛を幸せにするよ」

割れんばかりの拍手と歓声が降り注ぐステージ上で空気と化していた司会者は我を取り戻すと、自身の仕事を全うせんと声を張り上げスタッフから受け取った新しいマイクを当事者たちに向けた。

『っっまさかのカップル誕生だぁー!!?
 箱学史上初!ミス箱学とミスター箱学のカップルが
 誕生した歴史的な瞬間!
 オレは猛烈に感動しているぞー!!
 ミス!ミスター!今のお気持ちを一言!』
「あー...尽八!あとは任せたぜ!」
『えっ、あっ、ちょっと!?ミスター!?』

いまだ涙に濡れる彼女の手を取り、ミスター箱学はステージの階段を駆け下りていく。
その場を任されたヴァンパイアは一瞬驚きに目を丸くしたが、すぐに満面の笑みを浮かべ、マントを靡かせ走り去る二人の後ろを追おうとする司会の男の肩を掴んで言った。

「ならんよ、これ以上は野暮というものだ
 そっとしておいてやってくれ...
 あとはこの東堂尽八が代わりに質問に答えよう!
 さぁ司会を続けるといいぞ!」



ハコフェス!
Midst of HakoCon side.新開 / 2017.05.12

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