涙が出るほどではないが、やはり悲しいものは悲しい。どうしたら付き合う気になってくれるんだろう?卒業まであと少ししかないのに。
人気のない旧校舎の裏でしゃがみ込んで空を見上げる。空ひとつない秋晴れとは裏腹に、佐久間凛の心はどんよりと曇っていた。
「ちょっと佐久間さん」
声がした方を向くと5人の女達が険しい顔をして立っていた。
ーー今は誰かと話す気分じゃないのに。
想定外にエンカウントしてしまったモンスターとのイベントはどうやら回避できそうになくて、彼女はため息を吐きながら長い髪を揺らし立ち上がる。
「さっきまた新開くんに告白してたみたいだけど、
どういうつもり?」
「新開くんはみんなの新開くんなの!」
「ちょっと可愛いからって調子に乗らないでくれる?」
「本人も誰とも付き合う気がないって言ってるじゃん、
何度も新開くんに迷惑かけるのやめなさいよ!」
怒涛の口撃が突き刺さる。
5対1とは卑怯じゃないのか。
勇者ご一行に倒される魔王もこういう気分だったのかなと思うと少し笑えた。
弱っているところを襲うのも戦いの定石。
だけど残念、あなた達は、勇者じゃない。
「お言葉だけど、それは出来ない相談かな
そうやって群れてるだけじゃ満足出来ない、
私は彼が欲しいの。だってそうでしょ?
牽制し合ってみんなの王子様認定して協定結んで...
あなた達それで本当に満足してるの?
想いを伝えられないのを人の所為にしないで、
私だって告白するたび勇気が要るし、
断られれば傷付くわ!
努力もしないで文句だけ言うのは御門違い
それに私はあなた達が新開くんに告白するって
いうなら止めないし、もしそれが上手くいったら
もちろん祝福するわ。何故かって?
私が願ってるのは新開くんの幸せだから
新開くんが選んた子なら間違いないから
こんな陰湿なことをするあなた達を新開くんが
選ぶわけない。私は新開くんを幸せにしてみせる!
あなた達の誰よりも!
あなた達にその意気込みがあるっていうの!?」
落ち着いて諭すはずが彼への想いを乗せて大きくなって、つい熱くなってしまった。彼女達にあたったところで意味はないのに。
胸の中に沈殿していた感情を吐き出して少し気分は軽くなった、反撃に怯む彼女達にも多少感謝をしなくては。
「...何も言えなくなるくらいなら口出ししないで、
私、本気なの。もういいでしょ?
ステージ呼ばれてるから行くね」
5人の人壁を押し分けて、メインステージのある中庭へ一歩踏み出す。
吹き付けた風が心地よく、長い髪を揺らしたーーー
*
「...新開、すごいのに惚れられたものだな」
同じくメインステージを目指す仮装した二人組は、旧校舎の隣の部室棟の影から偶然にもその光景を目撃していた。
美人の熱弁に圧巻されたヴァンパイアは目を丸くして前髪を掻き上げる。当事者であるフランケンシュタインは頭からたい焼きを齧っていた。
「...みたいだな。時間だ、オレらも行くぞ尽八」
長い髪を靡かせて彼女が去ったのを確認してからその後を追う。コンテスト開始は、もう間も無くだ。
ハコフェス!
Before HakoCon side.新開 [後編] / 2017.05.11
Before HakoCon side.新開 [後編] / 2017.05.11